【2008年1月26日(土)18:45~ 愛知県芸術劇場】
●マーラー:《さすらう若者の歌》 →クリスティアン・ゲルハーヘル(Br) ●シューベルト:交響曲第8番ハ長調 D.944 ⇒ヘルベルト・ブロムシュテット/NHK交響楽団 あれが80歳を迎えた指揮者の音楽でしょうか。 まったく若者のようでした。 2週間前、FMで《プラハ》と《ロマンティック》を聴いて、僕はブロムシュテットの音楽を「ふわふわの卵焼き」であり、縦方向へのこだわりほどには横方向を顧みないと、そういった内容のことを書きました。 こちらのアホな思い違いだったようです。 訂正します。 昨日のシューベルトは、ふわふわと柔らかい音響ながらも爆発的に横方向へ推進していました。もしこの演奏が48kbpsくらいの粗いウェブラジオで流れて、すなわち美しい弱音や縦方向のバランスが聴き取れなくて、「只今の演奏はグスターヴォ・ドゥダメル指揮、シモン・ボリバル・ユース・オーケストラです」って言われたら、信じてしまうかもしれない。 第1楽章の冒頭で、ホルンのパッセージがかなり速い。速いです。。 この日の大ハ長調は本当に爽快だったのです。 呆気に取られていると、美音と輪郭を同時に保ちつつ、弦のユニゾンで第1主題。 あーこの音はN響本気だなあ。本気になったN響をNHKホール以外の場所で聴くと、なかなかに素晴らしいことになる。過去の経験からそんなことが察せられます。 いつものようにステージ真横の2階席に座ったのですが、それでも十分に聴き取れる明解な対向配置。1本のメロディを1stと2ndで受け継ぎ、引き渡し、また取り戻す、そこへVaとVcが遊びに来て、遠くからKbが近づいてくる。弦についてはこうした3次元遊戯を、柔軟なバランス感覚でもってよく実現させていたと思います。 管になるとN響のメンバーは個性的な音の人が多いので(よく耳にするから覚えているっていうのもあるし)一筋縄ではなかったけども、音色の差異による多重化がここでは行なわれていたのかなと。こういうところはオケの個性を引き出して、おまけにそれを凹凸でなくしてしまうブロムシュテットのパワーによるのかもしれない。ふわとろ卵焼きワールド。 あ、コーダ。序奏の楽句で再びのクリティカルヒット。すぱーんっ...と終わってしまった。余韻の質で、聴衆が緊張しているのがわかります。ブ氏はニコニコしてるぞ。。 第2楽章は冒頭のObソロが一瞬だけ崩れてヒヤリとしましたが、美点はなんと言っても、前半のクライマックス(「破綻」ですかね)が美しいままで鳴り響いていたというところに尽きます。その後恐る恐る戻ってきたVcの厚く柔らかい歌わせ方は、いくらこの日の演奏が若干のピリオド風味に聴こえたとしても、ブロムシュテットの底にあるのは質朴で控えめな浪漫なのだ…ということの証拠として提出されるでしょう。 後半二楽章はザクザクした肌触りが痛快で、一気呵成に持ってかれてしまった。 特に第3楽章のメカニックには素直に感心。。サントリーホールほどには響かない愛知県芸で、しかもステージに近接した位置で聴いてもしっかり揃っていたです。N響って決して下手ではないよなあ。トリオのレントラー風味はあくまでも健康的で、木管は控えめながらふわふわの音響。もし広すぎるホールであったら拡散してしまうような類の。 第4楽章は各要素が悪戯っぽく自己主張しながら、それでもふわっと1本にまとまって流線型に推進しているのが面白いです。いやーすごいなー。ゼロ・リタルダンドで突っ込むコーダの野太い音に感激。こんな音が出てくるのかN響。。 + + + ゲルハーヘルも大変よかったんです。よかったんですが後半が凄すぎて印象が薄まってしまった。抜けのいいヒロイックな声質のバリトンで、きっとこれから日本でも人気を獲得するんだろうなあ。でも2月5日の《白鳥の歌》@しらかわホールには行けそうにないッス。 + + + 本日岡山で聴かれる方、ぜひ呆気に取られてください。80歳にして永遠の青年ブ氏。
by Sonnenfleck
| 2008-01-27 02:07
| 演奏会聴き語り
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Comments(8)
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at 2008-01-27 09:44
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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Sonnenfleck at 2008-01-27 09:52
>aguさん
いつもながら手厳しいなあ(苦笑) 僕の耳ではいつもよりもかなり「対話」があったように聴こえました(弦と管の間の分断もそれほど深刻ではなかった)。2ndとVaの充実についてはまったく同意。 ゲル氏は聴いた席が席なので評価が難しいですが、スマートな歌い手だなと思われました。声は正面で聴かないと何とも言えない。
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かめ
at 2008-01-27 22:01
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ブロムシュテット、マイ・フェイヴァリッツです。以前のFM評をよませていただいて正直心を痛めていました。それが訂正されてブロムシュテット氏にとっても本当によかった!
「グレート」の1楽章は確かノリントンだったと思いますが、以前にLPでグレートを録音したときに、この楽章が実は2拍子で書かれていることを発見したというのを読んだことがあります。自筆譜でもみたのか、現在どのような版が流布していて、N響が何を使ったかはわかりませんが、2拍子にとるなら当然テンポは速くなるはずですね。悠然と進められることが常識となっていたのであればそれは歴史の誤解なんでしょう、きっと。
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Sonnenfleck at 2008-01-27 22:19
>かめさん
生で聴かないとわからないことがたくさんあるなあと改めて思い知りました。いくつもの層が重なっていて、いっぽうで「核」が弱いんじゃないかとも思っていたんですが、全然そんなことはなくて、大変素晴らしい音響設計でした。本当に生で聴けてよかったです。 物理的なテンポも速く、推進力もあって、結果的にかなりの「快速」でしたね。
昨日の公演、私もちゃっかりと行っていました(笑)。初体験のブロムシュテットでしたが、凄かったですね。あの若々しさ、丁寧でいて大局観のあるサウンド設計、この曲が苦手な私にとっても目からウロコでした。この指揮者なら何回でも聴いてみたくなりました。
N響もホントに良かったですね!非NHKホールでのN響は要チェックにすることにします。
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Sonnenfleck at 2008-01-27 23:52
>蔵吉さん
2週連続でニアミスでしたね(笑) 去年は聴けなかったN響@名古屋。。今回のプログラムもサントリーのB定期をそのまま持ってきてましたし、東京が終わったあとのネット上の評判もずいぶんよくて、完成度の意味では東京と同じかそれ以上になりそうだなあと思ってはいました。でもここまでとは。1月はいい公演が聴けて満足しっぱなしです。。
初めまして。岡山の演奏会に行った者です。ブロムシュテット氏の年齢を感じさせないタクト捌きに、仰るとおり呆気に取られました。
第1楽章後の『余韻の質で、聴衆が緊張しているのがわかります』という雰囲気、岡山でも全く同じでした。 岡山でも素晴らしい演奏会でした。
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Sonnenfleck at 2008-01-28 22:42
>ヒロノミンVさん
はじめまして!コメントありがとうございます◎ 質の高い演奏が響いていると(そして聴衆がそれに気づいて息を飲んでいると!)、ホール全体の空気が変わりますよね。今回のブロムシュテット/N響もそんな雰囲気で。。「N響は地方公演で手を抜く」なんてまことしやかに言われてますけど、なんのことかという感じでしたね。 今後ともよろしくお願いいたします。
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