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フェルトホーヴェン/オランダ・バッハ協会 《ヨハネ受難曲》@長久手

フェルトホーヴェン/オランダ・バッハ協会 《ヨハネ受難曲》@長久手_c0060659_655588.jpg【2008年2月24日(日)16:00~ 長久手町文化の家】
●バッハ:《ヨハネ受難曲》 BWV245
  (ピーター・デュルクセンによる1724年初演版)
→ゲルト・テュルク(T/福音史家)
  ステファン・マクレオー(Bs/イエス)
  マリア・ケオハナ(S)
  マシュー・ホワイト(C-T)
  アンドルー・トータス(T)
  ヴォルフ・マティアス・フリードリヒ(Bs/ピラト、ペテロ)
⇒ジョス・ファン・フェルトホーヴェン/オランダ・バッハ協会管弦楽団&合唱団


長久手町文化の家は、拙宅からクルマで30分程度のロケーション。
風が強いけど天気はよかったので、昼下がりにドライヴも楽しみながらの道のりでした。
会場は「森のホール」という馬蹄型大ホール…と言っても2階建て構造800人くらいのキャパですから、雰囲気としてはまさに晴海の第一生命ホールですね。ロビーで売ってる公演パンフもアレグロミュージック製だったので、いろいろと似てる感じ。

まずホールに入ってステージを見渡すと、椅子が極端に少ないんです。
1stVn×1、2ndVn×1、Va×1、Ob×2
Vc×1、Kb×1、ヴィオラ・ダ・ガンバ×1
テオルボ×1、オルガン×1、チェンバロ×1 …計11人
という極薄編成。合唱も、上に名前を挙げたソロ6名がアンサンブルも担当し、そこへ3名のリピエーノ部隊が加わるだけの9人体制。舞台上には指揮者を含めて21人しかいません。
この少人数かつトラヴェルソがいない編成は、本公演のオルガニストでもある音楽学者のピーター・デュルクセンが、《ヨハネ受難曲》初演当時のトーマス教会の状況等から考証したものらしい。あと一般的なヨハネと異なっていたのは編成だけじゃないようだけど、それが演奏解釈なのか楽譜の違いなのかよくわからなかったので、触れずにおきます。

肝心の内容はというと、、いやー、面白かったですよ。大感動とはちょっと違うけど。

オランダ・バッハ協会については「あの豪華装丁のバッハでしょ?」ぐらいのイメージしかなくて、ここまでの最先端古楽集団だとは思ってなかったというのが正直なところ。
テンポは自在に伸び縮みし、快楽主義的な装飾がときどき付いて、ニヤリとさせる。
メンバーそれぞれが確固とした技巧の持ち主であるうえにとにかくアクが強く、表現欲に燃えている。プログラムの解説どおり、バッハオペラを地で行く濃い目の味つけです。
チェンバロの後ろにObがいる変な配置のせいか、はたまた「ホール」とは名ばかりのほとんど響かない空間のせいか(直接音しか聴こえないのはなぜ~)、冒頭は聴こえ方のバランスがおかしくて戸惑ったけども、慣れてくるとクセのあるアンサンブルの妙味に耳が向きます。

で、旋律楽器5人に対して通奏低音が6人ですから、通奏低音が冗談じゃないくらい表に出てくるわけですよ。通奏低音フェチとしては堪えられない。。ここがいちばんの萌えどころ。

MVPはVcルシア・スワルツ。レチタティーヴォは彼女の骨太な音に支えられて、とにかく聴き応え十分!巧かったなあ。Cemシーベ・ヘンストラとともにエヴァンゲリストをがっちり包み込みます。寺神戸さんのコレッリで通奏低音を担当しているのもこの2人。
テオルボマイク・フェントロースも即興にセンスがあって好きです。
ミネケ・ヴァン・デル・ヴェルデンヴィオラ・ダ・ガンバも最初から通奏低音に参加していて、テオルボとともにアルカイックな雰囲気作りに一役買ってました。
Kbロベルト・フラネンベルク(「天変地異」の場面でほんの数秒見せた超絶技巧!)とOrgピーター・デュルクセンは、テオルボとともに三人でイエスのパートを支える場面が多く、もしかして三位一体の修辞なのかなと思ったんですが、どうなんでしょう。>お詳しい方

歌手は粒ぞろいで実に安心して聴けましたが、その中でもやっぱりエヴァンゲリストとイエスが抜群の出来。ステージでも仲良く並んでいたこの二人、テュルクは知的でスマートな声を、マクレオーは感覚に訴えかける甘い声をそれぞれ響かせて、落涙させてくれました。
初めて生で聴いたけど、、マクレオーはいい歌い手ですね。第2部のアリオーソ〈よく見るがよい、私の魂よ〉は、ヴィオラ・ダモーレの響きとともにダンディズムの極致。。BCJで聴くような禁欲的なバス歌手にはない魅力がある。
ソロBsのフリードリヒは急病のピンチヒッターとのことで、若干芝居がかってウザい場面もあったんですが、『巨匠とマルガリータ』のせいでポンティオ・ピラトにはつい同情的になってしまう。人間くさい、味のある歌でした。ブラヴォ。

基本的には、コンサートホールでニヤリとするための「受難曲」だったように思うのです。
それのどこが悪いのか。いや、どこも悪くない。
by Sonnenfleck | 2008-02-25 06:56 | 演奏会聴き語り | Comments(6)
Commented by metacequoia at 2008-02-25 12:00
>バッハオペラを地で行く濃い目の味つけです

私とは真反対のレビュー。
面白く読ませて頂きました。

コンティヌオの面白さは際立っていましたね。
マクロウドは上から下まで声質・声量にムラがなくない、これからが楽しみです。
客入りはいかがでしたか?厚木は土曜マチネーでもかなり空席が目立ちましたが。

あらためて、今後ともよろしくお願い致します。
Commented by ライオンの昼寝 at 2008-02-25 21:07 x
私も会場から30分ほどの所に住んでいます^^
初めて行った会場は、なんだかヨハネの初演版(と称するもの)とあっていたような気がする。
残響のない容れものに8~9割の入りの客が入ったのが、独奏・独唱の小集団という個人技で楽しませるのにちょうどよかったのかもしれない・・・とはいっても、私はバッハ初心者ですので、信用しないほうがいいでしょう^^;

以前に聴いたトン・コープマン/アムステルダム・バロックのマタイは所謂「よくある演奏形体」だったから、最初から「どんな演奏になるか」に注目していた。
ところが今回のヨハネはというと、そもそも詳しくないヨハネが二十数人で演奏されるのだから、興味津々・・・演奏の良し悪しなんてわかりゃあしないが、その分「素直に楽しめるか」ということになる。

そして実に楽しめたのだ!
エヴァンゲリストの見事さ、通奏低音がこんなにも聞こえてくる面白さ、そしてジングシュピールを思わせるやりとり!・・・受難曲とはいっても当時の音楽状況と無関係ではないのだから、後のオペラにつながるものがあるのは当然なのだろう。

Commented by kimata at 2008-02-25 22:00 x
さすが通奏低音フェチのSonnenfleckさん、鋭い!

イエスやエヴァンゲリストを縁取る彼らの即興性はとても面白かったですね。器楽奏者の中ではヘンストラぐらいしか聞いた事ないなぁと思っていたのですが、Vcの人は寺神戸さんのコレッリにいた人ですか!?不覚でした、気づきませんでした。かなりの愛聴盤だったのに・・・お恥ずかしい。
Commented by Sonnenfleck at 2008-02-25 23:24
>metacequoiaさん
私が「濃い目」と感じたのは、「表立った通奏低音」が響きの輪郭を強調していたせいだと思います。座った席が2階席真正面で、響かないホールでも比較的ストレートに音が飛んでくる場所だったというのも関係してそうです。
会場はほぼ満員でした~。厚木市民はもったいないことをしましたね(笑)
貴ブログへリンクさせていただきました。よろしくお願いします。
Commented by Sonnenfleck at 2008-02-25 23:34
>ライオンの昼寝さん
お互い、意外と近くに暮らしているかもしれませんよ(笑)
長久手のホールについては、デザインも音響もロケーションも全部ひっくるめて総合的に判断すれば、好き7に対して嫌い3というところですかね。確かに今回のような編成(と演奏)だと、東京公演の紀尾井ホールではキャパが大きすぎるかもしれません。残響でごまかす必要がないくらい細部まで気合いが入ってました。
Commented by Sonnenfleck at 2008-02-25 23:38
>kimataさん
ところがです。寺神戸さんのコレッリだと、同一人物か?!っていうくらい細身のチェロが聴こえてくるんですよ。様式感を重視したんですかねえ。どちらが彼女の実像なのか…映像を伴ってるぶんだけヨハネのレチタティーヴォのほうが生々しいですが。。
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