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僕は視る人形

僕は視る人形_c0060659_636063.jpg【DECCA/476 2686】
●ストラヴィンスキー:《ペトルーシュカ》
●バルトーク:《中国の不思議な役人》
⇒クリストフ・フォン・ドホナーニ/
  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

うーむ。またドホナーニ。
「推薦」連発してるレコ芸のセンセイみたいな気分。

ですが、ドホナーニはここでもずいぶんと素晴らしい仕事をしているので、またしても「いい!」と言わせていただきます。仕方ないですわ。

この2曲が録音されたのは1977年の12月でありまして。
ヒストリカルをほとんど聴かず、クラにまつわる「脳内補正神話」みたいなものが好きでない僕としても、こんな響きを証拠として提出されたら、ウィーン・フィルがこの時期にあってもその独特の響きを維持していたらしいことを認めないわけにはいきません。木管のソロからトゥッティの爆発に至るまで、どこもかしこもこってりとした美音。
そんな状況で、今の彼のやり方にまっすぐ通じるような、恐ろしく精密で非人間的なリズムや縦の構造を実現してしまったことで、若き日のD先生はきっと団員から蛇蝎のごとく嫌われたことでしょう。これはさぞ激しいリハが繰り返されたのだろうと勘繰りたくもなります。

基本的なテンポ設定は速くはありません。速くないけど、響きが消えていくところにやはり気を遣っているようなので、もたれたりはしない。
美しい響きが充満している中で、特に第3部と第4部の充実には目を見張ります。前者ではムーア人とバレリーナが一緒に踊る場面がまさに「痛ましく」演奏されていて、ため息が出ますね。見せ付けられる者は、空しく苛立ちつつ美に見蕩れるという屈折した感情を持つわけで。この曲がった愛と痛ましさはまさしくミシマの世界。
で、そんな密室などなかったかのように、華やかな謝肉祭が第4部で描写されます。
〈熊を連れた農民〉から〈商人と二人のジプシー娘〉にかけての30秒間、目も眩むような響きが構築されてます。どこか一箇所聴いてほしいとしたら、ここ。

せっかく豪ユニバーサルが覆刻してくれたのに、たぶんすでに廃盤。
入手は困難ですが、探す価値大有りです。あ、もちろん《マンダリン》も色気のある演奏。
by Sonnenfleck | 2008-03-07 06:39 | パンケーキ(20) | Comments(6)
Commented by shu at 2008-03-07 20:10 x
えーと、私も推薦マークを入れたく思いますので、とするとこれは「特薦」ということになって、レコミー賞のヒストリカル部門にノミネートされてしまったりするんでしょうか(笑)。

エントリ拝見して、思わず聴き直してしまいました。いつもながら Sonnenfleck さんの仰るとおりで、私も音を遅らそう膨らまそうとするVPO陣とドホナーニ先生の締技の拮抗がもたらす緊張感がビリビリきます。ドホ先生はこういうのを分かってあえて挑戦してらっしゃったのかもしれないですね。私、この「マンダリン」も好きで、よく聴きます。

あまり関係ないんですが、「レコ芸」で評者が一人の時ってあるじゃないですか。あれって不公平だよなと思ってきたんですが(特に日本人演奏家のCDで一人はなかろうよと)……どうなんでしょう?
Commented by Sonnenfleck at 2008-03-08 08:02
>shuさん
これって国内盤で発売されたことあるんですかね。。「新譜」と仮定するとカテゴリは「管弦楽曲」になって…。そしたら私のほうでは曲名と演奏者に関して、原稿用紙のマス目を埋めるかのように長々と書いておきますので、shuさんはぜひ分析をお願いします(笑)
そうそう。「評者一人」ってすごく失礼ですよね。「聴いたけど書くに値しない」っていうのか、それともレコード会社のヨイショがその人数を左右するのか、いまだに謎の多いところです。もう何年も買ってませんが…。

なんでこんなにいい演奏が埋もれてるんでしょうね。ドホナーニは正規盤があまりにも手に入らないので、裏が青い盤に手を出してしまおうかと悩んでいます。VPOとの競演も発売されていることですし。
Commented by モザイク at 2008-03-08 11:25 x
こんにちは。
これ、いいですよね。当方所持の国内盤ではジャケットに、ストラヴィンスキーが誰か(バルトーク?)に対してお辞儀をしているカリカチュアが使われております。「火の鳥」と「2つの肖像」が組み合わされたものも好きです。「火の鳥」では、トランペットが色んな方向から聴こえてきて、アナログ時代のデッカならでは、といった感じです。この演奏(カスチェイ王の凶暴な踊りからの抜粋)がストラヴィンスキー初体験でありまして、幾分速めのテンポによるスリリングな昂奮と、楽団固有の音色による色気とが、妙にマッチした演奏に惹かれ、以降何年もこの演奏を探し求めたものです。
レコ芸の評は、片方の選者が無印だった場合、もう片方には特別依頼しない、なんてことを聞いたことがありますが、どーなんでしょうね。随分と買ってないんですが、それでも気になるコーナーもあるので、毎月立ち読みでお世話になっています。
Commented by shu at 2008-03-08 19:07 x
私が中古屋さんで買ったのも同じ国内盤です(表紙を携帯で撮ってみました)。
http://ensaga.exblog.jp/7622508/
これ、バルトークだったんですね。私はずっとドホナーニ先生かと思ってました(^^。90年4月の発売ですから、もう18年も!再発無いみたいですね。ドホナーニ先生の裏青、いろいろ出てますね。私のFMチェックにもVPOやBPOを振ったのがいくつかありました。BPOはアバドの後任を選ぶときにドホナーニ、バレンボイム、マゼール、ラトルから絞ったのですが、その時のドホナーニの「英雄」が全く素晴らしい出来映えでしたのに、選ばれなかったのが残念でした。またいつか発掘してみます。

レコ芸の評、「演奏者と曲の紹介+一刀両断」だけは辞めて欲しいですよね。私も紹介だけ書いて楽したいです(笑)。それでも一人はやっぱり失礼ですよね。。「無印」ならなおさらもう一人頼む必要があるかと思うのですが。
Commented by Sonnenfleck at 2008-03-08 21:51
>モザイクさん
あ、さすがに国内盤出てましたか^^; この再発盤も狂気がちょっとだけ滲んでいて悪くないなと思ってましたが、初版はなかなか可笑しいですね。最近こういうデザインの新譜見ませんよねーそういえば。《火の鳥》&《2つの肖像》のほうもめでたく再発盤を買いましたので、そのうち聴いてみます!

レコ芸はやはり謎ですね。。そうすると片方が推薦だったらもう片方にも執筆を依頼するんでしょうか。最近は1年に1回、レコードイヤーブックを惰性で揃えるために1月号だけ買って正月休みに読むスタイルが続いてます。
Commented by Sonnenfleck at 2008-03-08 22:01
>shuさん
斜に構えたストラヴィンスキーがかわいいですね(笑)
BPOでエロイカですかー。。きっと凄いでしょうね。。ドホナーニ先生の裏青では、NDRとのプルチネッラ&悲愴、およびロス・フィルとのブラームス全集がかなり気になっています。裏青業者を喜ばせるのは癪ですが、他に聴く手立てがないとなると…。

素晴らしいレヴュー記事がネット上で簡単に手に入るようになって、最新の動きに注意を払っているとは思えないお爺様方の「評論」を毎月載せているレコ芸は、どれほどのものなのかなと思わないではないです。もっともモザイクさんのコメントのとおり、まだまだ気になるコーナーもあるし、かつてお世話になった手前応援したいんですが。。
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