5月5日の9時20分に美術館へ到着したときには、すでに数十メートルにわたる大行列。
しかし《ウルビノのヴィーナス》は、絶対に見ておかなければならないのです。
ウフィツィに行くと思えば、露店のチョコバナナ売りの甲高い声や、上野動物園に向かう大群衆の歓声を遠くに聞きながらの行列も苦ではない。
ところが、実際に9時30分に開場してしまうと大した混雑ではなかったので拍子抜け。ヴィーナスの前もスカスカでじっくり鑑賞できました。早起きは3コペイカの徳だね!
■まずは意外に巨大な画面であるということ。ヴィーナスでけー。
■肌の質感。次元が違う。豊かな大腿部から、ほんのりと赤みを帯びた膝、ふくらはぎ、凛と伸びた爪先にかけてのラインはほとんど煽情的。
■それに対応するように、窓の外へ広がる気候は不吉な曇り空を主張している。
■加えてタペストリーと寝台の細かな装飾文様に執拗さを感じる。
■さらに言うと、光源の位置が謎すぎる。
■右から眺めるとヴィーナスの脚と後景の縦のリズムがぶつかる様子が伝わる。
■左から眺めると視線は良く合うが、身体のエロスはずいぶん減退する。
■タペストリーと柱と侍女による後景、およびカーテンによる中景によって、視線は上から下へ流れる。前景の寝台は横方向へ広がり、床面のタイルは奥行きを示す。
■つまりヴィーナス以外は乾燥した
座標空間のようであります。ヴィーナス以外は。
+ + +
《ウルビノのヴィーナス》(1538年)は、ティツィアーノとしても畢生の大作だったんでしょうね。次のセクションの
《ヴィーナスとアドニス》に、それほどのオーラはありませんでした。
あとは、目玉以外にも味わいのある作品がいくつか。
◆ポントルモ
《ヴィーナスとキューピッド》(1533年頃)
《ウルビノのヴィーナス》のすぐ脇に、この筋肉質のヴィーナス。凛々しい目元はまるでJOJOではないか。
全然かわいくないキューピッドはスタンド。
よく見ると左に石仮面まで用意してあるではないですか(笑) ひとりで笑ってしまった。
◆ジョヴァンニ・ダ・サン・ジョヴァンニ
《キューピッドの髪を梳くヴィーナス》(1627年)
展覧会場最後の壁面に掛けられていた作品。近代性を得たヴィーナスは、自分の顔を美しく見せないという詐術と、服を着るというしょうもない美徳を学んだらしい。
ただしそのぶんエロスは妖しい方向へ進化してしまったらしく、たった100年の経過で、今度はキューピッドが劇的にエロティックになっていました。背中の矮小な翼と、瞳を潤ませてこちらを見てくるあの顔は反則です。反則ですね!
5月18日まで。