千田稔『伊勢神宮―東アジアのアマテラス』、2005年、中央公論社
五章立ての論点がどうもはっきりしない。 一章と二章では天照大神(アマテラス)の成立について延々と不親切な話を進める一方、三章では江戸末期までの神国思想を語り、四章では明治から終戦までの伊勢神宮史、五章では戦中の植民地における神社建設と神道崇拝について、、といかにも散漫な印象。 特に前半三章は(こちらの不勉強もあるけど)、「当然これぐらい知ってるでしょ?」というスタンスなのか定説と持論の区別をはっきりと書かない。そのために文章がゆらゆらと揺れ、まったくわかりにくいんですね。道教と土着の信仰の融合ってせっかく面白そうなテーマなのに…何のために新書の形態をとっているのか、作者氏はもうちょっと意識した方がよかったんじゃないでしょうか。一二三章だけで一冊にしちゃえばよかったのに。 でも、四章と五章は素直に面白いんです。 明治2年の天皇伊勢行幸に始まる、国家神道への変容過程。これは基本的な事実を平易に著述してくれているのでわかり易い。特に第5章で語られる「植民地での国家神道浸透政策」はこれまでまったく知る機会がなかったもので、台湾神宮・朝鮮神宮・満州建国神廟の建設エピソードは興味深いの一言だなあ。 朝鮮神宮の建設時、在野の神道家から次のような意見書が提出されたらしい。すなわち「朝鮮の神宮に日本の始祖である天照大神と明治天皇を奉り、朝鮮の神を無視するのは変だから、朝鮮の始祖たる壇君と朝鮮王家の先祖を奉るべきだよ」云々。―なるほどねえ。神社に奉られるのはその土地と関係が深い神、というのはある意味では当然の考え方だから、植民地の神社にもその考えを適用すべきということでしょう。こういう冷静な視点も混ざっていたんだなあ。 でも結局、奉られたのは天照大神と明治天皇だったわけです。ううむ。 伊勢神宮のことをコンパクトに知りたい人にはまったくオススメしませんが(僕も別の本を探してみます)、植民地における神道に関しては参照すべき文献になっていると思います。
by Sonnenfleck
| 2008-06-19 07:25
| 晴読雨読
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Comments(2)
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pfaelzerwein
at 2008-06-19 16:18
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昨晩集まりで、伊勢にもバリ島などのシャーマニズムが建物にも表れているというのを聞きました。日本のそれは固有のものとの考えは、そのように考えると、民族の移動と共に決してそうでは無いとする考え方にぶつかります。どちらかと言うと同時発生的に東南アジアとの共通性があると思っていましたが、天照大神神話自体が南方のものだとの見解には驚きました。
朝鮮半島との場合も、たとえ帰化人の里帰りとしても、実際にはそれ以前の文化の天皇を介さない影響力をも考えないといけないのかもしれません。
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Sonnenfleck at 2008-06-19 23:56
>pfaelzerweinさん
「東アジアのアマテラス」という見出し。作者は、アマテラスの起源が中国・江南の日神信仰にあって、それが朝鮮→日本へ渡来したという点と、その数千年後に神国日本の国家神道として奉り上げられて「里帰り」した顛末、この二点について言いたいんだろうなあと思います。 おっしゃるようなシャーマニズムもかなりの部分で流入しているはずですし、作者も「なぜ伊勢神宮が伊勢にあるか」という問題に触れてはいるんですが、本文にも書いたように「起源」と初期の歴史に焦点を合わせたらもっと面白かったろうなと思います(それが客観的でなくても)。 それにしても対馬はなんと素敵な場所に浮んでいることかと。韓国に行く前にぜひ対馬へ渡ってみたいなあと思うのでした。
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