「BCJのブランデンブルク」全曲演奏会@名古屋

【2008年6月22日(日)16:00~ しらかわホール】
●バッハ:ブランデンブルク協奏曲第1~6番 BWV1046-51
→島田俊雄(Tp)、トーマス・ミュラー、オリヴィエ・ダルベレイ(Cor)
  山岡重治、向江昭雄(Rec)、菅きよみ(Ft)
  三宮正満、前橋ゆかり、尾崎温子(Ob)、功刀貴子(Fg)、
  寺神戸亮(Vo-pic、Vn、Spl)、
  フランソワ・フェルナンデス(Va、Spl)、ディミトリー・バディアロフ(Vn、Spl)、
  若松夏美(Vn、Va)、高田あずみ、パウル・エレラ(Vn)、
  森田芳子、成田寛(Va)、秋葉美佳(Vn、Va)、
  福沢宏、武澤秀平(Gam)、山本徹(Vc)、西澤誠治(Vo)
⇒鈴木雅明(Cem)/バッハ・コレギウム・ジャパン


豪華メンバー。と同時にいろいろ考えさせられるコンサートでした。

今回の企みとして、開演前に雅明氏から簡単なレクチャー。
■ バッハが「ヴィオロンチェロ」と指定してパート譜を書いたのは、今日知られるVcのためではなく、肩に乗せる小さなVcのためであったと思われる。その頃の文献にも「Vcは最近膝で挟んで弾かれ始めた」という記述がある。従って今回は第2、3、4、6番をヴィオロンチェロ・ダ・スパラで弾くこととする。
■ 第3番は「3」にこだわって作曲されている。2つの和音しか書かれていない第2楽章をどうするかで演奏解釈が分かれているが、今回は実験として《3台のCemのための協奏曲》BWV1064の第2楽章を転調してここに当てはめる。

+ + +

…今回出かけてよかったなあと思った理由のひとつに、スパラがそんなに好きじゃないのがよくわかったということが挙げられます。この楽器に過度の期待をしなくてもいいというのが自分の中で了解されたように思う。スパラファンの皆さまにはとても申し訳ないんですが、当ブログは今日からアンチスパラ派です。。
Vcが弾いていたパートをスパラに置き換えると何が起こるか?

★メリット:何より足回りが軽くなる。技巧的なパッセージがスムーズに飛び出す。
       音量が慎ましく、リコーダーやチェンバロを踏み潰さない。
★デメリット:音の立ち上がりから減衰まで終始モヤモヤしてキレが悪い。
        Vcに比べると表現可能な音が少なめ(のように聴こえてしまう)。

たとえば第3番第3楽章の3人スパラ。確かに皆さん腕が立つし、華麗な速弾きを目指してはいた。いたけれども、おそらく楽器の性質のために音の立ち上がりが素直じゃなく、結果的に他のパートから微妙に遅れて聴こえるという悲劇に見舞われてたんですよね。
音量の「バランス」で言ったら確かに優れている。第2番第4番でリコーダーを塗り潰してしまわない淑やかさは新鮮であったと言えます。でもほとんどの場合はそれが裏目に出てしまって、まったく物足りない第3番は上の声部を支えきれず梯子を下から外されたような気まずさが漂うし、せっかく第3楽章に華やかなVcソロが用意された第6番も、あの渋い音域の中ではいるのかいないのかよくわからないような状態。うーむむ。

Vcの表現力でスパラにできることは大概できてしまう、と考えるのは誤りでしょうかねえ。面白い楽器であるのは間違いないけど、はたして大管弦楽の中で生きる楽器だろうか、と思う。
たとえば音量バランス的にFlソナタ、あるいは(バッハから離れるけど)ヴィヴァルディのVcソナタのように、ソロVcの他に通奏低音Vcがいて謎な音響になっちゃう作品とかに適用したらすげーよさそうなんですけどね。

+ + +

というのを踏まえますと、今回は西澤さんのヴィオローネに殊のほか酔いしれた2時間半であったことです。
ヴィオローネは普段なかなか注意が行き届かない楽器で、今回のようにほぼ一人でアンサンブルの重低音を担っている様子は新鮮。雅明氏の設定するテンポは意外とどっしりしていましたが、それを支えて丈夫な杭を打ち込んでいくのが今回の西澤さんの役割でした。しかも耳を澄ますとヴィオール属らしいエロティックな音で色んなことをしているのでドキドキしましたね(コントラバスではもうヴァイオリン属に近すぎる)。第6番では6人の弦楽器の中央にでんと構えてノリノリ。

+ + +

長くなりますが、全曲演奏に触れる機会はそんなにないので短く感想文を。

■第1番 豊潤ではもう足りなくて、豊満の領域に達している。
最大編成だったというのもあるけれど、僕は冒頭のこの曲がこの日の白眉だったと思います(ミサ曲や受難曲を演奏するBCJと同列にするのはおかしいので、ここで「すわBCJシフトチェンジ」とか語るのはたぶん無理)。三宮さん率いるOb3人衆とコルノ・ダ・カッチャ2人組、そこへFgが加わり、とろけるような絡み合いにTKO。

■第2番 山岡さんがソリストになってることに吃驚。BCJ的には「超有力外様大名」なんじゃないんですかね。彼の音は力強くて優しくて、凝り固まったところがまったくないではないBCJの響きを解きほぐしてました。やっぱり山岡先生すごい。

■第3番 上に書いたように、アンサンブルの中ではスパラの3人がちょっと冴えない。雅明氏は煽るけど…。素直に森田さんのVaに萌えておくことにしましょう。

■第4番 これも山岡さんが凄いのでしたが(リコーダーってアンサンブルの中であってもあんなにブリリアントな音が出る楽器なのね…)、さらにその上へ若松さんのVnソロの超絶技巧が炸裂して大変エキサイティングなことに。

■第5番 ここまで弾き振りスタイルで縦置きだったチェンバロが90度回転して横置きとなり、雅明氏はソリストに、弾き振りはVnソロの寺神戸さんの役目に。やっぱ寺神戸さんはVnが似合うよ(ただ第3楽章で謎のエアポケットがあったように感じたんですが、、真相はいかに)。トラヴェルソの菅さんはちょっと弱いかなと感じなくはなかったけど、第2楽章のかそけき風情が大変よかった。
そして肝心の雅明氏はと言うと…いやいやいや…。これはひねくれ者と呼んでくれさんの「中年暴奏族」という表現がピッタリはまりすぎてるので勝手に拝借いたしますです。すいません(←ちゃんと走り屋じゃなく奏で屋になってるのが可笑しい)。激しくかっ飛ばしつつエッジの効いた装飾を混ぜ込むので、ちょっとランペを思い出しました。

■第6番 ずっとスパラを弾いてたフェルナンデスがついに1stVaを手にしまして、ちゃきちゃきした気持ちのいいソロを聴かせてくれる。寺神戸さんのスパラがあんまり聴こえなかったのは残念。スパラの駆動性の良さを踏まえて、第1楽章や第3楽章でもっとアグレッシヴに攻めてくるかなと思いきや、比較的趣味のいいところに留まってましたねえ。

+ + +

2週間にわたる演奏旅行もこの日が千秋楽、ステージにずらっと並んでカーテンコール。
お疲れさまでしたー。いろいろあったけど楽しいひと時でしたよー。
by Sonnenfleck | 2008-06-23 06:52 | 演奏会聴き語り
<< デ・ゼッサントも大絶賛 そうだった >>