クス弦楽四重奏団@名古屋

c0060659_6131784.jpg【2008年7月11日(金)18:45~ 宗次ホール】
<ルネサンス・ミーツ・モダン>
●ラッソ:《シビラの預言》~〈プロローグ〉、〈アグリッパ〉
●ストラヴィンスキー:弦楽四重奏のための3つの小品
●ラッソ:《シビラの預言》~〈デルフォイのシビラ〉
●ウェーベルン:弦楽四重奏のための6つのバガテル op.9
●ベネット:《涙せよ、わが瞳》
●ハイドン:弦楽四重奏曲第67番ニ長調 Hob.III-63 《ひばり》
●ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第12番変ホ長調 op.127
  ○アンコール ウィルビー:《さようなら愛しいアマリリス》
⇒クス弦楽四重奏団
  ヤナ・クス(1stVn)、オリヴァー・ヴィレ(2ndVn)、
  ウィリアム・コールマン(Va)、フェリックス・ニッケル(Vc)


超弩級インテリ。嫌味と気障を纏わりつかせないくらい高速で回転してる。

まず冒頭のラッソでびっくらこいたのです。もちろんルネサンスらしい強烈な不協和音とふわふわしたメロディラインも新鮮だったんだけど、何よりこの合奏形態から、オルガンのような無生物的音響が飛び出してくるとは毫も思ってなかった。たとえば5月に聴くことができたABQから、こんな音は一切出ていなかった。原理が違う。
《シビラの預言》はもとは4声のモテットなんスよね。古典派やロマン派のように主や従の関係に貫かれているわけではないので、各パートは高度なスタンドアローン状態になってそれぞれ裸のパフォーマンスが聴こえてくるのだけど、どのメンバーも唖然とするくらい巧い。。以前ウィグモアホールかどこかでやった彼らのライヴをウェブラジオで聴いたんですが、ここまで醒めた興奮を提供してくれるカルテットだとはその時は気づかなかったんです。

ラッソとのサンドイッチとして饗されたストラヴィンスキーとウェーベルン。
ストラヴィンスキーの「隠し切れない土臭さ」はこの中ではちょっと異質な感じがしたんだけど、ウェーベルンとラッソの連続した時間はまったく至福であったと言えます。
宗次ホールは天井が高いわりに意外とドライな音響なんだなということに昨日気がつきましたが、もともと怜悧な音をしているらしいこのカルテットがそこで演奏するウェーベルンは実に切れ味鋭く、スパッスパッと響きが切り落とされていく様子、そして完璧な技巧(あのフラジオレット!)には感嘆オクアタワーズ。

で、この夜最大の衝撃は、実はハイドンだったんですわ。
ラッソからベネットまで(拍手で中断されることなく)一息で描き上げられたことで、こちらの耳の焦点は16世紀⇔20世紀の不協和音に合わせられた。そこで登場するハイドン。

…なんておかしな音楽だろう。

というような想念を一瞬でも持たされたら、クスQの術中にはまったと言えるんじゃないかな。ハイドンが蛍光灯のように「あからさま」に聴こえる経験は、これまでしたことがない。
むしろニ長調の健康的なメロディではなくて、ハイドンが効果的に、しかし極端に控え目にちりばめた不協和音へ耳が勝手に向かっていくんです。そしてその不協和音の「ほつれ」からハイドンの緊密なスコアが分解されて、なぜかラッソやウェーベルンに変容していく幻聴、それがここで確かに体験されたのでした。ううむ。何だったんだ。
ルネサンス・アンド・モダン・ミーツ・クラシック?

ベートーヴェンの弦楽四重奏曲は老後の愉しみに取ってあるので、言及を避けます。
ってかあれに言及する能力をいまだ持ち合わせておりません。あの不思議な第2楽章は一体。。あの楽章だけはクスQの顔から余裕が消えていたぞ。。

+ + +

招聘元のアスペンのサイトを見ると、クス・カルテットの今回の来日でルネサンス・ポリフォニーとモダンのサンドをやったのはどーうも名古屋だけっぽいんだよなあ。この夜、小さな宗次ホールに駆けつけた100人に満たない聴衆は、保守音楽都市・名古屋がほんの120分間だけベルリンやロンドンに変貌するのを目の当たりにしたのでした。

嬉しくなって会場売りのCDを全部買い、久しぶりにサインまでしてもらったです。
ホールを出ると適度に人口密度が低くて、夜風が気持ちいい。終演後に夜の街のネオンやヘッドライトがきらきらして別のものに見えるコンサートは、そんなにない。経験上。
by Sonnenfleck | 2008-07-12 09:09 | 演奏会聴き語り
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