パリ国立オペラ 《トリスタンとイゾルデ》 その2

c0060659_6275090.jpg【2008年7月27日(日)14:00~ オーチャードホール】
●ワーグナー:楽劇《トリスタンとイゾルデ》
⇒ピーター・セラーズ(演出)
⇒ビル・ヴィオラ(映像)
→クリフトン・フォービス(T/トリスタン)
  フランツ=ヨーゼフ・セリグ(Bs/マルケ王)
  ヴィオレッタ・ウルマーナ(S/イゾルデ)
  ボアズ・ダニエル(Br/クルヴェナール)
  エカテリーナ・グバノヴァ(S/ブランゲーネ)
  サムエル・ユン(Br/メロート)
  アレス・ブリシャイン(T/牧童・若い水夫・船乗り)
  ユリ・キッシン(Bs/舵手)
→アレッサンドロ・ディステファノ/パリ国立オペラ合唱団
→セミョン・ビシュコフ/パリ国立オペラ管弦楽団


続こう。

■うた
トリスタン役のクリフトン・フォービスが(ちょっと寂しい外見も含め)終始お疲れモードであったのを除けば、うたのアンサンブルは穴がないどころかきれいな球面で、ほとんど綻びが見当たらなかったです。しかしトリスタンが愛に悩み死を渇望する騎士だとしたら、そのフォービスのくぐもって客席へ届かない声も納得。

男声ではマルケ王役のフランツ=ヨーゼフ・セリグが貫禄たっぷりで、誰も彼も死んでしまった第3幕の悲しみを一身に受けていたし、クルヴェナール役のボアズ・ダニエルは若く丸っこい外見からして愛嬌たっぷり。第1幕のイゾルデ侮辱ソングの勝気な感じや、第3幕でトリスタンが昏睡状態から目覚めたのを見て嬉しがる様子なんか、思わずこちらの頬も緩んだです。
(トリスタンとクルヴェナールが並んでいると、ルックス的にはどっちが若い騎士でどっちが従者かわからん。)

このものがたりに2人しか出てこない女声は、どちらも格別に素晴らしかった。
ヴィオレッタ・ウルマーナのイゾルデはいかにも毅然として重く、場合によっては鈍い冷たささえ感じさせるほどだったんですけど、僕の心の中のイゾルデはビルギット・ニルソンだから、そのようなウルマーナの歌唱はいかにもタイプでありました。
少し魔女然とした第1幕が完璧だったのは言わずもがな、第2幕は毅然とした女性が乱れていく様子をビリビリと伝える。さらに第3幕では、ト書きの「気絶」をまったく無視した仁王立ちで愛の死をソリッドにキメてくれたわけですから、あの涙腺決壊は自分の中では当然。

そのイゾルデと対等に渡り合ったのが、ブランゲーネ役のエカテリーナ・グバノヴァ
彼女に会場中から物凄い大ブラヴァが飛んだのは納得せざるを得ません。この人、スリムな美しい外見でステージ映えする上に強靭な声の持ち主で、第1幕の最初にイゾルデの伝言を届けるシーンからして凛とした雰囲気に惹かれました。第2幕の見張りボイスも、その危急を告げる鋭さが、甘いエロの中の苦いアクセントになって素晴らしかったと思う。

■オケとビシュコフ
僕が座ったのは2階バルコニーの最前方、つまりオケピットのほぼ直上。
会場中で最もオケの存在感が強い一帯だったわけですが、いやー、、いいオケです。ぽってりと丸みのある音がずっと保たれているのが(あの至近距離からも)わかる。CbやTbは意外にゴリゴリと主張しているのに。
ピットを覗き込んでミクロ的に聴いてみても、ソロがたくさん回ってくる弦楽器各首席やOb・Fl・Cl、そしてコーラングレが高いレベルで色気を振りまいており、それが今回の激しい感動の原因のひとつであったのは間違いありません(たとえば第2幕後半で「憧憬の動機」が管楽器だけの曖昧な輝きで奏されるところ、たとえば第3幕で牧童の笛の旋律がオケピット内に受け継がれた瞬間の美しさ、、ああいったところの味わいは筆舌に尽くしがたい)。

親方ビシュコフはどうか?
ここはたぶん盛り上がる、っていうところを絶対に外さない安定感とケレン味は評価が分かれるところかもしれない(愛の死のクライマックスでべったべたにやってくれたのは、あらゆる法則から解放されたあの映像とのバランスを考えれば、けっして悪くなかったなあと思うのです)。でも第2幕でトリスタンが飛び込んでくる箇所なんかは変にあっさりしてて不思議。

■客席とその他
1階2階は妙に空席が目立つ。2階センターの最前列がごっそり空いていたので、もしや皇族系VIPがいらっしゃるのかと思ったけどそんなこともなく。逆に、本当に聴きたい人が大挙して押し寄せたと思われる3階はスシヅメギュウギュウな感じ。
関係者の間にS席が10K円で出回ったという嫌な噂も聞きましたが(真偽のほどは知らんけどさ)、直接的にはそんなに害を受けたわけではない。事前に覚悟していたよりは、本当に視たくて聴きたくて来たような雰囲気の人が多かったように思います。

ただし僕の隣には「私オペラって初めて観るんです♪」という(ような雰囲気に擬態してんじゃね?的な)ねえちゃんと、いかにも講釈好きなおっさんのペアが座ってて、休憩時間中はその会話を聞かないようにするのに苦労したのでした。
by Sonnenfleck | 2008-08-01 06:39 | 演奏会聴き語り
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