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「版」の誘惑展@名古屋市美術館

先々週の土曜日にBCJのレクチャーコンサートがしらかわホールで開催されたんですが、開場までの時間を涼しいところで過ごしたい。
そう言えば名古屋市美術館で地味~な名前の企画展がやってたなあと思って白川公園のほうへ歩きます。あの近辺はオフィスビルと駐車場が多くて、休日は本当に静かなのだ。
蝉時雨を浴びながらなおもトボトボ歩くとやがて美術館が見えてきますが、同じ方角へ向かう人がひとりもいない。こりゃ中も空いてるなーと思って入場する。本当に誰もいない。広い展示空間にお客は自分を入れてせいぜい5人、あとは監視員たちがぽつりぽつりという感じで、いよいよ文化果つる白川公園ですね。

まあそんなことはどうでもよくて、空いているほうがずっとありがたい。
「版」と鉤括弧で囲まれているとおり、この展覧会では狭義の版ではなくて、アートが伝達されるメディアのことを大まかに取り上げているようでした。従って展示作品は版画に留まらず、ポスターに新聞、インスタレーションまで登場して、制作された時代も見事にバラバラ。それでいて妙にクールにまとまった雰囲気が、ちょっと豊田市美術館の常設みたい。本展も展覧会名にアルファベットを入れてカッコつけたら、もっと注目されてたかもしれません。

面白かったものをいくつか。

「版」の誘惑展@名古屋市美術館_c0060659_6384597.jpg◆サイモン・パターソン《大熊座》(1992)
アルミニウム板にオフセット印刷。
地下鉄の路線図にしか見えないので危うくスルーするところでしたが、よぅく見ると路線のそれぞれが「哲学者」だったり「イタリアの美術家」だったり「科学者」だったり「ブルボン朝」だったりするんですよ。レオナルド駅やプラトン駅は複数の路線が乗り入れてて芸が細かいし、「コメディアン」路線もあっていちいちシニカル。

もちろん「音楽家」もあったのだけど、タリス→ギボンズの終着駅がテレマンだったり、分岐してヘンデル→バッハだったり、はるか遠くにマレ駅があったり、なかなかブッ飛んだ配置。我々が窺い知れない遠大な法則に従っているのかも。

◆ジョン・ケージ《七・日・日記》(1978)
ケージの手になる小さな連作版画集。基本的にはあまり意味があるとは思えない線の集合ですが、月曜日から始まった加工は日を追うごとに複雑さを増して、土曜日には青い色を、日曜日には明るい光を獲得することになる。

◆渡辺幾春《昭和美女姿競 紅染月 秋暑》(1930年代)
美人画で有名な作者。しどけなく開いた胸元から上を描く、浮世絵美人画で慣れ親しんだスタイルと、制作年代の意外な新しさに強いギャップを感じさせる。

◆河口龍夫《関係―時のフロッタージュ》(1996-97)
和紙に化石をフロッタージュで写し取ったものを、標本箱のようにして並べた一群。
思えばこのブログは、つまり僕が趣味世界に耽溺するスタイルは、強い一次表現へ重ねたフロッタージュでしかない。大切なのは紙の選択と鉛筆の濃さなのかしら。

やれやれと見終え、それでもBCJの開場まで時間があるので、美術館1階のカフェ・ステラでアイスティーを注文する。レモンを2つ入れることにする。
by Sonnenfleck | 2008-08-16 06:45 | 展覧会探検隊 | Comments(0)
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