驚くべき、驚くべきシュトライヒャー@宗次ホール

c0060659_2217224.jpg【2008年10月20日(月)18:45~ 宗次ホール】
<メンデルスゾーン>
●Vnソナタ ヘ短調 op.4
●Vcソナタ第2番 ニ長調 op.58
●《ロンド・カプリチオーソ》 ホ長調 op.14
●Pf三重奏曲第1番 ニ短調 op.49
 ○同第2番 ハ短調 op.66~第2楽章
⇒小倉貴久子(Fp/1845年 J. B. シュトライヒャーによる)
  桐山建志(Vn)
  花崎薫(Vc)


おおよそ僕がこれまでに聴いた、どのメンデルスゾーンよりも素晴らしかった。
本当によかった。心の底からメンデルスゾーンを味わった。

当夜の主役は、ヨハン・バプティスト・シュトライヒャーが制作した跳ね上げ式ウィーンアクションの木製フォルテピアノ。これが制作された1845年というのは、鉄骨フレームによるイギリスアクションが登場する前に栄華を誇ったウィーンアクションが、最後の輝きを見せていた頃らしいです。
見た目には木目が大変美しいけれどもオール木製ではない。現代のコンサートグランドとは比べ物にならないくらい弱い張力の線ではありながら、それでも木製だと耐え切れずに割れてしまうので、それを支えるため箱の中に鉄柱が渡してある由。

+ + +

このシュトライヒャーから流れてくる音が、心を捉えて離さないのです。
音の頭はあくまで粒立ちがよく、高音域には鳥の声のような軽やかさが、低音域には生々しく残酷な属性があり、それらが消えてゆくときには惻惻とした風情がある。
何より、和音のさまざまな色合い、これが堪らない。
明らかにモダンのピアノとは違うし、これまでに聴いたほかのフォルテピアノとも味わいが異なる。和音の違いが空気の揺れの違いであることを、直感的に感じさせるのです。こぼれてくる和音を聴き逃さないように、ひとつ残らず掴まえられるように、こんなに夢中になったようなことはあまり記憶にありません。

自由席だったのをよいことに、前半2曲はホール2階の最前列で、後半2曲は1階の最前列に移動して聴き比べをさせてもらいました。興味深いのは、1階最前列のように通常であればピアノの音が巨大すぎて何も聴こえないような場所に座っていても、和音のさまざまな色合いを感じることができ、ピアノの筐体が振動しているのがはっきりと感じ取れるという点。
バランス的にはVnとVcの音量に負けるくらいではあるけれども、そのぶん弦楽器との溶け合いは極上としか言いようがないのです。シュトライヒャーの発音が、弦楽器のピツィカートによく似ているというのも面白い発見。

その上で、演奏がいい。小倉さんのタッチも、桐山さんの弓づかいも、花崎さんの歌い回しも、みなピリオド・アプローチを自然に昇華し、軽快で清冽な印象を聴き手に与えます。これ見よがしのメンデルスゾーンなんてまっぴらごめんだものね。
和音を掴まえる愉悦に溺れることができたのは、Vcソナタ第2番第3楽章
シュトライヒャーのしなやかで優しい風合いに感服したPf三重奏曲第1番第2楽章、透き通ったとんぼ玉がコロコロコロ...とたくさん転がっていくように感覚的触覚的な第3楽章marutaさんが7月に予言されていたとおり、このナチュラルさがメンデルスゾーン演奏の最先端であると言うことができそうです。
本当に胸がいっぱいになってしまったので、当夜は宗次オーナーに深く感謝し、いつものようにホール出口に立っていらした彼に頭を下げてホールを後にした。

今日の19時より、まったく同じプログラムの演奏会が静岡で行なわれるので、距離も時間も自由になる方は(ならない方もぜひそのようにして)駆けつけるべきと思います。
by Sonnenfleck | 2008-10-21 06:16 | 演奏会聴き語り
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