【2008年11月20日(木)18:45~ 宗次ホール】
●シューベルト:4つの即興曲 D899 ●ベートーヴェン:Pfソナタ第30番ホ長調 op.109 ●ドビュッシー:《水に映る影》、《沈める寺》、《月の光がそそぐテラス》、《月の光》 ●フランク:前奏曲、コラールとフーガ ○ショパン:ワルツ、《幻想即興曲》、《雨だれ》 ⇒イェルク・デームス(Pf/ベーゼンドルファー?) あの120分間は何だったんだろう。何か特別な体験だったかもしれない。 シューベルトは朴訥とした語りで、しかしあくまで容赦なく畳み掛けるリズムで、オーストリア人にとってのシューベルトっていうのはこういう音楽なのかも(日本語文化圏の外の音楽家が演奏する民謡や日本語歌曲のことを思うと、こういう印象がオカルトじみているとは断言できない)。 1曲目からグスグスと鼻をすする音があちこちから聞こえてきたんですが、自分は3曲目、変ト長調のアンダンテでぼろぼろ泣いてしまいました。ハンカチがじっとりとするくらい。 続くベートーヴェンのop.109は、柳がただ風に吹かれているような軽い流れが印象に残ります。流れの中に無数に浮遊するフレーズの塊は「こうでなくてはいけない」という力みではなくて、「こうだよ」というナチュラルな示しによって形作られていました。 後半のドビュッシーになって、デームスの凄味がさらに引き出される。 どちらかと言えば脂の抜け切ったお爺さま、という感じだった前半とは著しいギャップを形成しながら、ドビュッシーでは豊満としか書きようのない分厚い和音で聴衆の頬を撫でてゆきます。《沈める寺》から『暁の寺』のイメージを感じたのは、これは初めての体験だった。 フランクの前奏曲、コラールとフーガに関して、デームスは次のように書いています。 この優れた作品には偶発的な音が全く無い。すべては多声音楽に、和声法に、楽式構成に、内面からのあふれる感情に、必要不可欠のものから出てきた音である。彼はこの曲を作る時オルガンの足鍵盤を念頭に置き、10本の両手の指の中に足2本分の音を配分して、この音楽的豊かさを得た。このようにしてフランクは全く新しい形のピアノ音楽を創造したのだ。テクニックの衰えを隠そうともせず訥々と弾いた最初のシューベルトや、楽譜の流れに乗ったベートーヴェンから、自然の摂理に反して悠然と聳えるこの大伽藍は想像できなかった。オルガンの模倣は解説を読むまでもなく明らかに伝わってきますが、トーンクラスターのような音(≠フレーズ)の塊、ミィィィィーンという「鳴り」のようにもっと実際的な要素は、僕が親しんでいたパスカル・ドゥヴァイヨンの録音からは一切聴き取ることができなかったものでした。 循環する主題が最後に高らかに鳴るカタルシスよりも、自分はこのデームスの老獪なテクニックのほうにひどく感銘を受けました。彼の80年は彼に厖大な量の深い抽斗を授けたようです。 + + + 1835年製作のコンラート・グラーフによる《ディアベッリ変奏曲》のCDを買って、最後にサインをしてもらいました。目の鋭い爺さまです。
by Sonnenfleck
| 2008-11-27 06:23
| 演奏会聴き語り
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