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SIDE-B/SIDE-I (4)

◆フランス・ブリュッヘン/18世紀オーケストラ(06@Karna Musik)
◆ジョス・ファン・インマゼール/アニマ・エテルナ(08@ZIG ZAG)

あまり間を置かずに聴いてゆかなければ。

SIDE-B/SIDE-I (4)_c0060659_632558.jpg<SIDE-B> ブリュッヘン/18世紀オーケストラ
【Karna Musik/KA-378M 1】
●交響曲第4番変ロ長調 op.60 ※()内は正規全集
  第1楽章 '12"29 ('11"21)
  第2楽章 '9"38 ('8"52)
  第3楽章 '5"39 ('5"14)
  第4楽章 '7"02 ('6"29)
(2006年12月2日 パリ・シャンゼリゼ劇場ライヴ)

昔ながらのブリュッヘンらしい気魄・力感を中に込めて、それでいてライヴとは思えないような美しいかたちを保っている。作品の性格と、新世紀に入ってからのブリュッヘンの好みが、ちょうどバランスを保った貴重な記録のように感じます。
たとえば普段フルトヴェングラーの録音を聴いている人や、バーンスタインや、あるいはカルロス・クライバーを好む人でも、これを耳にしたら一目置くんではないかと思います。もし僕がGlossaのマネージャなら(笑)真剣に発売検討するかも。

第1楽章の序奏からもったりと重たい期待感、それから主部に入る瞬間の、血が飛ぶような鮮やかな破裂。こういった決定的な部分が凡百の演奏とは違うし、彼らの昔の録音とも異なっています。いつものように管楽器をぶわわっと浮き立たせるバランスを踏襲しつつ、作品の自重を活かした無理のない展開に歳月の経過も感じさせるところ。この匂い立つように鮮烈な発色に比べてしまうと、1990年録音もやや古ぼけてしまった感じが拭えないなあ。

一方で第2楽章の低体温ぶりには今世紀のブリュッヘンを強く感じる。正規録音の「企らんでいる」ような不穏さは溶解して、構造が化石になって残っているだけのようです。白くふやけたような感じも少しあるから、人によっては年月の残忍さを思うところでもありましょう。

第3楽章では肉が少し戻って、慣性に逆らおうとする動きが若干窺える。巨匠風のたっぷりとしたアゴーギクによる広がりが味わえるポイント。さらにそれだけではなく、この楽章の豊麗な和音を味わわせようという指揮者の意志もあってか、妙なる耳のご馳走楽章ともなっています(正規録音以上のサービスサービス!と言えます)。我々がその豊麗さにしたたかに酔うことが許されているのは幸せですね。

この演奏の第4楽章がいいのは、最終楽章であることの重みから逃げていないところだ、とでも書いたらいいのかなあ。「艶のある不遜さ」のようなものをフォルムとして活用しているので、作品自重以上のスピード感があるし。これはライヴならではの自意識の作用かもしれませんね。

+ + +

SIDE-B/SIDE-I (4)_c0060659_6331279.jpg<SIDE-I インマゼール/アニマ・エテルナ>
【ZIG ZAG TERRITOIRES/ZZT080402.6】
●交響曲第4番変ロ長調 op.60
  第1楽章 '10"22
  第2楽章 '9"42
  第3楽章 '5"28
  第4楽章 '6"44
(2005年12月10-12日/ブリュージュ・コンセルトヘボウ)

かたやSIDE-Iはどうなのかというと、方向性が全然違うけれども、こちらも名演と言えそうなのです。
ブリュッヘンを聴いた耳で触れると、初めは交響曲としての展開構造の弱々しさに驚くことになります。これはダメっぽいなあと思って最初はそういう感想を書き始めたのですが、何度か繰り返し聴いているうちに、どうやら瞬間々々のテクスチュアのレベルがかなり高いんではないかということに気がつきまして。広げられたパッチワークを感じることができるようになれば、これは聴きものです。インマゼールは旧来の(揺らぎ幅の雄大な)展開構造ではなくって、パッチワークの模様の連続によって展開を行うようにしているのかもしれません。

たとえば第1楽章ですが、かなり浅い呼吸感の下で爽やかなスピード感に偽装しているものの、本当はギチギチと動く木管ギミックの気持ち悪さだったり、雨後の筍のように生物的に林立する弦楽の不思議な触感だったり、そういうものに専ら関心が向けられているような気がします。自然、微視的な模様比べが主要な出来事に躍り出ることになるわけだ。

第2楽章はもともと締め付けの緩やかな楽章だから、恐らくまさにそこに起因するブリュッヘンの軽さ透明さに比べると、インマゼール流の賑々しいモデリングに軍配を挙げたいな。木管楽器を合奏協奏曲のように美しいソロに仕立て上げるバランス配分も自分の好みであると言えます。アニマ・エテルナのクラリネットは巧者ですなー。

第3楽章になると、第1楽章で少し気になったアーティキュレーションの不徹底がほぼ解消されて、第1交響曲のように鉄壁のアンサンブルを聴く喜びが浮上いたします。しかしあくまでも、インマゼールが鉄壁のアンサンブルでもってやるのはパッチワーク状の音楽でありまして、俯瞰できるのはせいぜい微細繊細な箱庭なのです。開放的で磊落な広がり感はあまり感じられないので、嫌な人は嫌だろうな。僕は大いにアリだと思いますが。
第4楽章もほとんど似たような傾向。
by Sonnenfleck | 2009-08-04 06:46 | パンケーキ(19) | Comments(2)
Commented by ハリー at 2009-08-04 07:01 x
インマゼールの全集は持ってませんが、ブリュッヘンの2種類の録音は聴きました。2002年の東京公演でも4番の完成度が1番高く、盛んに拍手を浴びてるブリュッヘンを思い出しました。
シャンゼリゼの4番は自分も正規発売して欲しいと思います(笑)
Commented by Sonnenfleck at 2009-08-04 22:29
>ハリーさん
確かにブリュッヘンの4番はもともとの得意曲というのもありますよね。旧全集でも好きな演奏です。自分の中のブリュッヘン補正も効かせつつ、今回は予想通りインマゼールもよかったので、いい聴き比べになりました。
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