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アストロン

c0060659_6313967.jpg【EMI/3422562】 <ヴォルフ>
アイヒェンドルフ歌曲集~音楽師、秘めた愛、セレナード、夜の魔法、船乗りの別れ
メーリケ歌曲集~苦悩から癒えて希望に寄せる、子供と蜜蜂、めぐりあい、飽くことを知らぬ恋、隠棲、春に、旅先にて、真夜中に、古い絵に寄せて、祈り、眠りに寄す、愛する人に、ペレグリーナⅠ、ペレグリーナⅡ、狩人、恋する者の歌、別れ
ゲーテ歌曲集~善人夫婦、ガニュメート
⇒イアン・ボストリッジ(T)+アントニオ・パッパーノ(Pf)

例年の真夏には最も似合わないディスクかもしれません。でも畸形の真夏には?

シュヴァルツコップもフィッシャー=ディースカウも聴いていない僕のヴォルフ経験値は依然として低いのですが、しかし魔王を倒しに行くハイレベルの勇者だけがヴォルフを語るものとも思えないのです。酒場で飲んだくれているダメな「勇者もどき」がヴォルフを愛することの何が悪いというのでしょう。心の中にわだかまって結局言えなかったことが、何度かの腐敗と熟成を繰り返すうちに妖しい結晶体になって、酒場の空気にばら撒かれています。ヴォルフの歌曲はそんなふうに聴こえる。
フィッシャー=ディースカウのバリトンがヴォルフの結晶を律儀に拾い集めて歌い上げるときに(きっとそのようなのだろう)、ボストリッジはいつものように甘い絶望感の混じったテノールで結晶のただ中に立っています。幾分多弁なパッパーノの伴奏とともに、もしかしたら鼻につくギリギリのラインの上を歩いているのかもしれません。ですが現状、僕にとっては、これ以外にはないなと思わせます。
たとえば、このディスクの《春に》(メーリケ歌曲集)という作品に打ち震えたのは、
Ach,sag' mir,all-einzige Liebe,
Wo du bleibst,daß ich bei dir bliebe!
に表現される世界の巨大な拡がり、そしてその少し後に来る、
Frühling,was bist du gewillt?
Wenn werd ich gestillt?
において、つんのめるようにして素早く発音される「w」の音に込められた、劣情といっても差し支えないような切望感。こういうところに尋常でないものを感じたからであると言える。

あるいは《少年と蜜蜂》の明るいエロス("O nein,du feiner Knabe,)、アイヒェンドルフ歌曲集であれば《夜の魔法》の昏いエロス(weiße Arme,roter Mund,)…。妖しい結晶の尽きせぬ氾濫であります。
by Sonnenfleck | 2009-08-20 06:45 | パンケーキ(19)
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