【PHILIPS/UCCP3149】 <シューマン>
●ObとPfのための3つのロマンス op.94 ●夕べの歌 op.85-12 ●アダージョとアレグロ 変イ長調 op.70 ●幻想小曲集 op.73 ●民謡風の5つの小品 op.102より ⇒ハインツ・ホリガー(Ob) +アルフレート・ブレンデル(Pf) ハインツ・ホリガーが来日して、全国各地で公演を行なっている。実は26日・27日の名フィル客演を聴きに行こうかと計画していたのだけど、ちょっと無理そうであります。 で、その代わりに、40代のホリガーとブレンデルががっぷり四つに組んだシューマン・アルバムを聴いた。うーんいいねえ。 芥川也寸志の『音楽の基礎』の中に、たとえばいろいろな種類の楽器でA音を持続して鳴らしてみると、楽器固有の音色の違いというのは存外わからないものだ、われわれが違いを聴き取っているのは発音のタイミングやノイズの差にすぎぬ、という趣旨の一文があったように記憶しています(本当にそんなもんかいなあ、と思ったことも覚えている)。 しかし、壮年期のホリガーがこのシューマンで聴かせてくれるオーボエの音色は、芥川理論の裏づけになるくらい、均質で滑らかで美しい。 じっと浸って聴いているとクラリネットやヴィオラのようにも感じてくるし、いよいよ人の声のようにも思われ始める。ついには、何というか「音波」そのものに変容していくような気もする。でも、ぐるりと一周して最後はやっぱりホリガーのオーボエであることを知覚させられる(有名なop.94の第2曲なんか、あるいはオーボエ・ダモーレに持ち替えたop.73の第3曲なんか、どうだろう)。こういう気持ちは他の演奏家ではハイフェッツくらいにしか感じないので、面白い。 + + + 俳優の藤田まことが亡くなって数日が経つ。 夕方に見る中村主水と安浦刑事は、身体が弱く学校を欠席しがちな僕のヒーローだった。コメディアンだったころの藤田を知らない僕のような世代にとっては、彼は二枚目の、少し面長な温かいおじさんという印象。これは今でも変らない。 そしてまた、風邪を引いて寝ていた20日土曜日の午後、「剣客商売」の追悼再放送を偶然見た。 藤田が「剣客商売」で秋山小兵衛を演じているのは知っていたけれども、原作も好きだし、藤田の雰囲気もなんとなく想像がついてしまって、ついにこの日までテレビの画面で藤田=秋山を見たことはなかった。 今回の再放送は「春の嵐」というエピソードで、まあいろいろあるけれども、凄腕の剣客というより老父や老人としての秋山小兵衛がクローズアップされる回なんですね。無実の罪で捕まった息子・大二郎の疑いが晴れ、屋敷に戻ってくるのを出迎えるシーンの藤田の顔。あるいは、すべてが解決し、酒を飲みながら若い妻に甘えるラストシーンの藤田の顔。これに釘づけになる。 間違いなく俳優の藤田まことでありながら、秋山小兵衛その人に感じられ、やがて老いた人間そのものの顔に変容し、しかしぐるりと回って藤田まことに戻る。 僕たちは名優を喪った。合掌。
by Sonnenfleck
| 2010-02-22 23:21
| パンケーキ(19)
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Comments(8)
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pfaelzerwein at 2010-02-23 13:21
彼は二枚目の、少し面長な ― 我々の世代はあれを馬面と呼んだのでした。
我々のような世代にとっての、月光マン、それともウルトラマンと同じ? ホリガーの音は、上の「音色の定義」からするとどちらかというと、「均質で滑らか」よりも、後半の「多彩な」の方が強いかと思いますね。もしかすると、彼自身の作曲が語っているように「音の立ち上がりや減衰」を意識するようになって余計にそのような方向が強調されたかもしれません。確かジュネーヴのコンクールの録音などは均質性の能力を証明してかもしれません。つまり、十分に鳴らすことができないと、多彩な音色も出せないと言うことでしょう。スタンダードな曲ばかりを演奏するオケマンなら均質だけでそれ以上は上手に出せなくても商売になる? そこで面白いのが、如何に古典派の時代は弦楽器に比べて木管楽器にそれほどの要求がなされていなかったかということでしょうか。例えば金管などは更に信号と呼べる一発芸ですよね。 均質と多彩は裏腹で、面長と馬面も同じですね。
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Hokurajin
at 2010-02-23 19:45
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ホリガーと言えば、その昔LP時代に聞いたヴィヴァルディのオーボエ協奏曲集が懐かしいです。
今はピリオド奏者による曲集を切望しているのですがなかなかその気配がありません。結構上手いなと思う人がいるのだけれど商業ベースに乗らないのかな。 藤田まことさんとの初めての出会いは、「てなもんや三度笠」です。 大阪の中津にあるテレビ局で公開放送をしていたのを、父親に連れられて行ったことがあります。 中村主水はあまり見なかったのですが、「はぐれ刑事純情派」の安浦刑事と「京都殺人案内」の音川音次郎は大ファンでした。 それほどのお年でもないのに、亡くなるとは残念なことです。
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Sonnenfleck at 2010-02-25 21:35
>pfaelzerweinさん
どちらかといえば、多彩さ(とそれに伴う技巧の数々)を感じさせないくらい均質だ、という感じのことを言いたかったんです。たしかに文をよく見ると二段構えになっちゃっていますね。多彩は均質な証拠、というところまで汲み取っていただいてありがたいです。 藤田まことのヒーロー気質は、普段はちょっと冴えない、という礎石があった上での伽藍かと思ってます。ウルトラマンは普段もかっこいいですからね(笑)
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Sonnenfleck at 2010-02-25 21:41
>Hokurajinさん
このまえ購入して最近よく聴いているアルビノーニのオーボエ協奏曲集もそうですが、このあたりの技巧的なコンチェルトは、モダン楽器の人があまりにも完全な姿を示してしまったために、古楽からのアプローチが遅れてるように思いますね。 「てなもんや...」はアタリマエダのなんとか、というやつでしょうか。そういうギャグがあったことを知識として収蔵している若輩者です。。この人は関西の役者の伝統を受け継いでいた人でもあったんですよね。
1977年だったか、もう一年前だったか上野の小ホールでホリガーのリサイタルを聴きました。バッハのフルートソナタからご自身の作品まで。それはそれは完璧だったと、隣で聴いていた素人オーボエ吹きの知人があきれ返っていました。それこそ“珍しく”バッハのBWV1031 のソナタのシチリアーノ楽章の最後あたりで一か所だけ吹き間違いをしましたが、これこぞ珍なるものだったようです。
この時のリサイタルのおまけの記憶は、その日の大ホールがショルティ&シカゴ響で、小ホール終演後に坂を下りていたら、アンコールの『マイスタージンガー』前奏曲が大ホールから轟き渡ってきて帰り客が“シカゴの音はでけえなあ”と立ち止まって思わず聴いてしまっていたのでしたw
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Sonnenfleck at 2010-02-27 19:33
>HIDAMARIさん
1977年というとちょうどこのエントリで取り上げたシューマンが録音されたころです。技巧的にもさぞ脂が乗っていたんでしょうね。羨ましい。。2010年の来日公演も終わってしまいましたし、日本で生ホリガーはもう聴かれないかもしれないですね。やっぱり無理してでも行っておけばよかったかなあ。。 小ホールの坂のくだり、そうそう!と思いながら読みました。あのように音の交差点状態になるのが上野の贅沢なところですね。
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ここなつ
at 2010-03-18 10:40
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お久しぶりです♪ お元気そうで何よりです^^
ホリガー@名フィル、聴いてきましたよ~。とても面白い演奏会でした。70を過ぎた今でも、やはり彼はオーボエのネ申であらせられました…。 んで、私もこのCDがお気に入りなもので、出待ちしてサインいただいてしまいました。いやー、これはもう宝物ですよ☆(T∀T) 5月に名フィル東京公演ありますよ。指揮はフィッシャー親方。メインはタコ5。 ご都合宜しければぜひお出かけ下さいね♪
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Sonnenfleck at 2010-03-18 22:08
>ここなつさん
ご無沙汰しています! 名古屋の皆さんのブログをこっそり覗きに行って、ああいいなあ…とため息をついているところでした。一度でいいから生で聴いてみたい人です(愛知県芸の出待ちスポはいまだにわからず)。 親方/名フィルの東京公演のことをいつエントリにしようか、うずうずしているところです。平日ですが…東の名フィルファンとしては駆けつけぬわけにはいきますまい!
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