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Seid ihr nicht der Schwanendreher ?

どうもな。去年の夏くらいから、透過率80%くらいの音楽ばかり聴いてきた。

透き通った音楽は、沼地の精霊のように親密に近づいてきて、こちらにそっと寄り添い、それでこちらのエネルギーをこっそり奪い取っていく。透き通らない音楽を聴くにはエネルギーが要るが、その代わりそれと同量か、それ以上の力を与えてくれるんだな。そろそろこちらの充電も終わったようなので、強い色、烈しい輝きを持った音楽にもまっすぐ向き合おうと思うよ。もう春の濁りはすぐそこ。

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c0060659_22442494.jpg【PANCLASSICS/PC10215】
●バルトーク:Va協奏曲(デッラマジョーレ+P. バルトークによる新校訂版)
●シェーンベルク:《浄夜》
●ヒンデミット:《白鳥を焼く男》
→今井信子(Va)
⇒ガーボル・タカーチ=ナジ/
  ジュネーヴ音楽院管弦楽団

ここまでバルトークとヒンデミットを録音してこなかった今井信子さんが、ついに封印を解いてディスクをリリース。この2曲との初めての出会いがこのディスクであった僕は、幸運だろうか。幸運だろうね。

バルトークで用いられた楽譜は、なんでも通常の「シェルイ補筆版」じゃなくて、手稿のファクシミリ版に基づいた「デッラマジョーレ新校訂版」というやつらしい。
補筆版の内容を知らないので、したがって新校訂版がどれくらいスッキリしたのかもわからないのだが、もともとのバルトークのペン先からして響きに混じりけがないような気がするし、晩年の「ヤンキー歓ばせテイスト」もそんなにないので、ひと息に音楽そのものを気に入ってしまった。

バルトークのざらざらに湿った悪意を薬味として受け入れられるようになった今、この曲にも厳然と現れている、ハンガリー時代のような闇っぽさに好感。
僕が育った田舎では、夜に犬の散歩をしていると、闇を切り裂くように鋭い声で鳴くトラツグミにしばしば出遭うことがあり、この作品での独奏Vaはちょうどそのように聴こえる瞬間が多い。

さてヒンデミットはどうかな。《白鳥を焼く男》を、陰気なユーモアに満ちた暗い音楽だろうと勝手に思い込んでいた自分を、からりっと明るい今井さんの音色が優しく平手打ち。
プレトリウスの古謡とヒンデミット様式の組み合わせなんて、ヒンデミット以外の誰が思い浮かぶだろう。音楽のほんのりとした明るさ、罪のない単純さ、そしてここでは、独奏Vaの丁寧な語り口が胸に迫る。苔生す第2楽章から、悪戯っぽい第3楽章へのVaの変わり身の鮮やかさは、今井さんの硬質なアーティキュレーションが活きるね。硬質といっても、取りつくしまもない硬さじゃなくて、曖昧なところのない爽快感をそのように呼べば、ということ。

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でね。バルトークとヒンデミットに挟まれた《浄夜》が、物凄い美演なのである。
by Sonnenfleck | 2011-03-10 22:50 | パンケーキ(20)
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