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スタニスラフ、工場へ行く

2012年9月、スクロヴァ爺さんが東京に来て読響を振り去っていったが、結局コンサートには足を運ぶことができなかった。ブログやTwitterで観測したかぎりではかなり評判がよろしく、聴けなかったのは無念である。

無念なので少し昔のCDを引っ張り出してきた。

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c0060659_9372681.jpg【Altus/ALT031】
●ベートーヴェン:《大フーガ》変ロ長調 op.133*
●ルトスワフスキ:管弦楽のための協奏曲*
●ベートーヴェン:交響曲第5番ハ短調 op.67**
⇒スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ/NHK交響楽団
(*:1999年1月27日/**:1999年2月5日)

僕がスクロヴァ爺さんを初めて生で聴いたのは、たぶん2004年4月に行なわれた3回のN響定期・オールベートーヴェンプロです。エロイカ(C定期)、第4+第7(A定期)、そして第5(B定期)で当方のハートを鷲づかみにした老人は、やがて読売日響のシェフに就任し、頻繁にその音楽を東京の聴衆に聴かせることになりましたが、あのときN響で味わった精密なベートーヴェンを上回る体験は(僕のところには)ついに訪れなかったのでした。

この1999年N響ライヴは、特にあのときのサントリーホールの様子をかなりはっきりと思い出させてくれる逸品ディスクで、とても大事。

ところどころ筋肉や血潮が見える読響のマッチョな弦よりも、重金属的で古インテリっぽいN響の弦のほうに、スクロヴァチェフスキらしさはより明確に宿ったのではないかと今でも考えていて、《大フーガ》の弦楽合奏を聴いてさらにその考えを深くする。細い金属線で織り上げられていくフーガの軽い手触りには、若い古楽系指揮者たちとは全然別ルートの軽快さがあるんだよね。

ルトスワフスキも素敵。打楽器が特別に峻烈かつ冷徹なリズムを指示されているのは間違いなくて、それがトゥッティを支配することで(むしろ!)前のめりの熱い音楽に仕上がっているのが楽しいです。この人のバルトークと同じで、たとえ縦線が精密に揃っていなかったりしても気にならない。熱いモダニズム!

そして第5。繰り返しになっちゃうけれども、スクロヴァ爺さんのベートーヴェンの軸にあるのは金属線の束感だと思う。しかもそれは、クリーンな工場でオートマティックに機械加工されるツルリとした束じゃなく、町工場の爺さんが技術を習得した時代に最先端だった加工技術によるものである。

何十年もその加工技術ひと筋でやってきた爺さんの製品は、声部の金属線同士が自在にほろほろと解け、解けては融合し、しかし明らかに文学作品ではなくて一個の工業製品として存在している。シンプルに駆動する第3楽章のフガートに、みな人は快感を覚えよ。
by Sonnenfleck | 2012-10-07 09:38 | パンケーキ(19)
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