【2005年7月19日(火)19:00〜 第440回定期演奏会/サントリーホール】
●ペンデレツキ:《広島の犠牲者に捧げる哀歌》 ●武満徹:《カトレーン》 →高橋アキ(Pf)、デイヴィッド・ノーラン(Vn)、嶺田健(Vc)、四戸世紀(Cl) ●スクリャービン:交響曲第5番《プロメテウス−火の詩》Op. 60(照明演出つき) →高橋アキ(Pf)、井上道義(舞台演出)、網代将登(映像美術)、山本高久(照明) 本日のメインプロは、スクリャービンの《プロメテウス》照明演出つきでありました。もともと「色光ピアノ」というパートが備わっているこの作品。「色光ピアノ」とは、特定の音高の鍵盤と特定の色の照明とが対応する楽器型(兼?)照明装置のこと。どうもたいていの演奏では、単純に作曲家自身による「色光」指示に従って舞台上のスクリーンに光を照射する、という都合のいい解釈がなされているようなのですが、今回の演奏では、指揮者ミッチーの肝いりで本格的な照明演出が施されたのであります。 僕の座った席は一階前列の左寄りだったので、会場全体を見通すことができず、したがって以下の説明も不足部分があると思いますが、ご理解ください。 まず下にアップした写真のように、グランドピアノ型の枠に白鍵のように細く白い紙を下げたものが天井から吊され、演奏が始まると舞台上も含めた会場の通常照明は完全に落とされます(各譜面台にはオケピット用小ライト)。代わりに赤・青・黄・緑などのスポットライト、蛍光色に光りながら床面を走るケーブル(光ファイバ?)、プロジェクタ、ピアノの下に仕掛けられた発光体などが、曲の進行に合わせて光り始める。 基調となる光の色は青と赤。光は、天井から下げられたピアノ型スクリーン、オケ全体、指揮者、ピアニスト、そして後方のパイプオルガン全面に「リズムよく」照射され(あるいは反射し)、目まぐるしい色彩の洪水が繰り広げられるのでした。特にオルガンには赤いスポットライトが集中的に当てられ、ギラリヌメリとした照り返しがいかにも焔。 細かな動きなんかは到底文章では描写できないのですが…作品中で繰り返される幾つかの同じモチーフではそれぞれ同じ色の指定(とその動き)が与えられ、視覚的な示導動機(って言っていいのかな)として活用されておったように思います。 ミッチー自身の解説によると、スコアには「光は、どこに、どのような強さで、どうやって射すのか。前後の関係も、全部消えるのか、一部残るのか、全く書かれていない」とのこと。そういう意味でこの演奏は、井上版演出(再構築)として、彼の意向が最大限に働いているのだろうと思われます。今夜の上演は、上質なスペクタキュラーでした(これは嫌みでも皮肉でもなく)。この曲がこんなに格好いいとは思わなかった。 スクリャービンが共感覚者だったと仮定すると、少なくとも「色⇔音」共感覚の持ち主ではない僕には、彼が色彩について触れた作品を聴く(そして見る)ことは擬似的な追体験でしかないのであります。ここのギャップを埋めることはたぶんできないので、ただ感覚的に楽しい出来事としてこれを処理するのがいちばん平和な解決かなと思う。でもこのギャップって実は大なり小なりあらゆる芸術作品と自分との間に横たわっていて、そしてそういうずるい処理(しょせん追体験、として開き直ること)は作品に触れたときにいつも無意識におこなっている作業なわけで、ううーん…まとまんないなあ。正直、スクリャービンと井上道義の意図するところがよくわからなかった、わからなかったがきれいで楽しかった、というのがいちばん簡単な本音です。それ以外書けないっす。ははは頭わるいー(@_@) 前半、《広島〜》を実演で聴けたのがうれしい!クラスター本流の震える空気感、ミッチーお得意のしなやかなデュナーミク。表題と内容がどれほどリンクしてるのか僕にはわかりませんけど、ただ非常に美しい音響だったと思います。音楽はハーモニーでできていて、メロディからはできていない。 したがって次の《カトレーン》が、そもそもの性質以上にやたら旋律的に聞こえるのはむべなるかな〜というわけです。これもまた夢幻の美しい世界。メシアンの《世の終わりのための四重奏曲》と同じソロ楽器たち(オマージュ?)が、旋律めいたものを振りまきながらコンチェルト・グロッソ風にトゥッティと絡みます。 究極的には、実にいい演奏会でした。考えさせられることはいいことだ。 2004/2005シーズンの演奏会聴き語りはこれにて打ち止めー。来シーズンは何が待っているのか。
by Sonnenfleck
| 2005-07-20 00:41
| 演奏会聴き語り
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Comments(8)
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Honey
at 2005-07-20 01:58
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こんばんは。
「色光ピアノ」ですか。初めて知りました。 珍しい趣向があるのですね。 コムズカシイことは、いつも苦手なHoneyとしては、f^^; ”きれいで楽しかった”と聞いただけで、興味津々! それと、 ミッチーって、、、(^v^)かわいい
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pfaelzerwein
at 2005-07-20 03:02
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こんにちは。なかなか意欲に富んだ催しですね。
「擬似的な追体験でしかないのであります。ここのギャップを埋めることはたぶんできない」のがポイントで、作曲家もこれは意識していたのではと言うのが、指揮者の解釈の要旨ですね。 この記事、非常に面白かったです。
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Sonnenfleck at 2005-07-20 11:29
>Honeyさん
ミッチーこと井上道義はそろそろ60歳になるはずなんですが、年を取るごとにどんどん格好良くなってるんですよね。昨日の魔術的な指揮ぶりには目が眩みました◎◎彼の指揮する演奏会はいつも「何かある」ので外せません。
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Sonnenfleck at 2005-07-20 11:34
>pfaelzerweinさん
何が言いたいのか全然まとまっていない文章で…お恥ずかしいです(^_^;) 井上は解説で「小説とは違って、本のようにはスコアを読めない人がほとんどなのだから、あえて『演奏』という再構築をやらねばならない」と書いているんですが、作曲家も「音が色として見えない人がほとんどなのだから、あえて『作曲』という再構築をやらねばならない」という意図でいたのかもしれない、と思いました。昨夜の出来事は、いわば二重三重の追体験とでも言いましょうか。ううむ…もう少し考えてみます●
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pfaelzerwein
at 2005-07-20 14:42
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Sonnenfleckさん、良く分かりますよ。そもそもプログラム自体が秀逸で、音楽的にも良く考えられていますね。ペンデレツキ-武満(メシアン)も恐れ入ります。そこへ神智学的なスクリャービン。これだけ立派なプログラムは、今シーズンに世界の大都市で幾つも無い訳です。流石東京と言わせますね。読饗定期だと思うのですが、サントリーホールでどれぐらいの入りでしたでしょうか?
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Sonnenfleck at 2005-07-20 22:38
>pfaelzerweinさん
まったくおっしゃるとおりだと思います。作品の選択、特に曲順については膝を打つしかないですね。この日のプログラムは井上のたっての希望で実現されたものだそうで、彼の非凡さ、そしてそれをシーズン最後の定期で受け入れる読響側の理解に拍手を送りたいです。 昨夜の入りは、、多く見積もって7割強という感じでしょうか。でも「どうしても聴きたい層」が当日券を買って多く入場していたようで、聴く側のボルテージはいつもよりずっと高かったですね。スタンディング・オベーションもちらほらと見えました。
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iustitia
at 2005-07-21 16:25
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《プロメテウス》ではないものの、神原泰はまぎれもなく、スクリャービンの音楽を見ていたのだなあ。
http://www.momat.go.jp/search/records.php?sakuhin=004400&sakka=AKA041 http://www.gallerysugie.com/mtdocs/artlog/archives/000247.html
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Sonnenfleck at 2005-07-21 18:00
>iustitiaさん
神原泰、寡聞にして知りませんでした。これって近美の常設展で見られるんですね。確かにスクリャービンのイメージを見事に喚起します◎
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