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晴読雨読:宮下誠『20世紀音楽』

晴読雨読:宮下誠『20世紀音楽』_c0060659_17152493.jpg宮下誠『20世紀音楽 クラシックの運命』、2006年、光文社

のっぴきならない私事で東京に行っておったのですが。
土曜の朝に名古屋駅の本屋で何気なくこの新書を買ったんですよ。新幹線の中で読もうと思って。しかし素っ気ないタイトルとは裏腹に中身はあまりにも濃く、すばらしく、すっかり興奮しながら読み終えました。

一般に「わからない」とされている現代音楽という概念を含む20世紀音楽について、ワーグナーからリームまで、全84人の作曲家を各論的に記した入門書。まず、「わからない」作曲家だけが20世紀音楽ではない、ということをはっきりと明言しているのが本書の肝であると言えましょう。筆者は「わかる」ほうの20世紀音楽=ルーセルとかハルトマンなんかについても前衛と区別することなく、優劣をつけることなく並行的に扱っている。しかし最近多い「不当に前衛を陥しめる系」ではない。これが実にすばらしいと思います。前衛と保守、どちらの側にも立たず、クールな距離感を保ったまま淡々と描写しているので、中にはこれを物足りないと感じる向きもあるでしょう(でも物足りなければ専門書に進めば済む事です)。それにしてもこの優れたバランス感覚は、、筆者が音楽学畑の学者ではないということに起因しているのだろうか…実に新鮮で潔い印象を与えますね。

そしてここで貫かれているのは(これが最も重要なのだけど)、読者に対する徹底的に誠実な姿勢なんですよ。
これは自分も含めて、20世紀音楽を語るあらゆるレベルの文字情報について言えることなんですが、「おたく、セリーとか偶然性とか退廃音楽とかちゃんと知ってるでしょ?忙しいボクはいちいち教えてらんないし、細かいことは辞典でも読んで調べといてよね」という、ある種の傲慢(あるいは無知を素直に認めたくない故のごまかし)がほとんど必ずそこに付いて回っているのが実情だと思うんです。しかしちょっとした疑問を調べるには、20世紀音楽について書かれた本の大部分は難解すぎ、入手が難しすぎ、またある種のものは極度にごまかされている。入門者に対しては、ブーレーズも許光俊もその意味で等しく親切ではないと言えましょう。(*たとえばブゾーニがどんな作風なのか知りたいとき、あなたはいちいち長木誠司の『フェッルッチョ・ブゾーニ―オペラの未来』を買いに走りますか?または図書館に行ってニューグローヴ音楽辞典を参照したりしますか?)

しかし本書には、そういった居丈高な学問的ごまかしも、ヲタク的見栄によるごまかしも、両方存在しない。20世紀音楽を俯瞰的に捉えることに対してここまでストレートに、しかも誠実な態度で臨んだ著作を僕は他に挙げることができません。
筆者の前著『迷走する音楽』が、あえてクラヲタを擬装することで音楽学的アプローチの諸問題を浮かび上がらせていたのに対し、本書の平明な文体には一瞬戸惑います。しかしその中に広がっている、いささか素朴ながら力強い使命感はやはりこの人ならではなんですよね。ポスト・ポストモダンっぽい感じで。
兎も角、これ一冊でクラシック音楽の20世紀がほぼ見渡せ、しかも新書という簡潔な形態…きわめて模範的な入門書ですよ。「ソラブジ」や「サテュリコン」という文字が印刷された新書が全国津々浦々の本屋に並ぶのかと思うとゾクゾクしますね。。熱烈推薦
by Sonnenfleck | 2006-09-17 17:33 | 晴読雨読
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