カウントダウン企画・ひとまずの最終回は、コンドラシンの初出ライヴについて。
ショスタコーヴィチの交響曲第4番が作曲されたのは1935年~36年にかけてのことです。でも初演の際、「プラウダ批判」の渦中にあった作曲家は、そのタイミングでの新作発表がけっして上手くないということを悟って、結局作品そのものを撤回してしまうんですな。そののち交響曲第4番はショスタコの机の引き出しで眠り続けますが、25年後の1961年、ついに幻の若書きが日の目を見る時がやってくる。しかしてその若書きは、とんでもない問題作だったのです。 さてこのときの「初演」を取り仕切った指揮者キリル・コンドラシンは、その14ヵ月後にドレスデンで行なわれた東ドイツ初演も指揮しているんですけど、今年なんとその東ドイツ初演のライヴ音源がいきなり発掘されて正規にリリースされたんですよ。吃驚仰天。 もちろんオケは東独が誇るシュターツカペレ・ドレスデンでありますが、いやあ…それにしてもこれは大変な録音が出ましたです。 まず全体的なコンドラシンのアプローチですが、名盤として名高い1966年のモスクワ・フィル盤に比べてかなり「恰幅がよい」組み立て方なんですよね。 立ち止まって歌いたくなるような誘惑に駆られる楽句でもクールに流す、禁欲的で決然としたコンドラシンのショスタコ演奏は、時としてあまりにも切羽詰りすぎ・余裕ゼロの偏狭さを感じさせてしまうのですが(確かにそれもショスタコーヴィチの重要な本質のひとつだとは思うんだけど…)、このドレスデン・ライヴはのちの全集録音で聴かれるそうしたコンドラシンとはちょっと違う。なんというか、極端に挑戦的な態度ではないのです。第1楽章の冒頭ひとつ取っても、音符を大胆にデフォルメして鋭く尖らせたモスクワ・フィル盤とは違い、一粒一粒の音価を拾って丁寧に伸ばすので、非常にふくよかな印象を与える。破局をこれでもかと見せつけるのではなく、まとまりやフォルムへの気配りが強く滲み出していると言いますか、極めて意外なことにオーマンディ/フィラデルフィア盤に通じる世界です。 それに、、頻出するブラスの破壊的なパッセージに耳を奪われがちだけど、この曲って思った以上に弦が表に出てくる箇所が多いと思うんですよ。その意味では、(スウィトナーの《魔笛》で聴かれるような!)美しい弦が異様に凄みのある色気を漂わせているこのライヴの価値は、まったく計り知れない。第1楽章の展開部の後ろのほう(トゥッティの大クレッシェンドの手前)とか、第2楽章のレントラー風味がここまで妖しく鳴る演奏がかつてあっただろうかと思いますね。 加えてモノラルながら録音の状態がかなりよい。 メロディアのステレオ録音(と呼ばれているもの)とは比べ物にならないくらい楽器の音が生々しくて、音の広がりも「NHKホールの三階席頂上」と同じ程度には感じ取れます。フォルティッシモで音が割れないのも吉。でかいスピーカで聴いたらさぞかし素敵でしょう。 荒れ狂う音の奔流で「ショスタコの第4」のイメージを長い間牽引してきたきたモスクワ・フィル盤と、突如登場したこのシュターツカペレ・ドレスデン盤。両者はっきり言ってまったく甲乙つけがたい(単に個人的な好みからすると、今回のライヴのほうが好きかもしれない)。しかし時期的には1961年の「初演」に最も近い、内容もそれに近いと考えても不自然ではない演奏が、こんなに柔らかくて緻密だったということには…驚かずにいられません。オススメ。
by Sonnenfleck
| 2006-09-24 22:38
| パンケーキ(20)
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