チェロのロストロポーヴィチ氏が死去(4月27日/asahi.com)
なんだかとても空しくて悲しい。音楽家の死に際していつも感じる、もう実演を聴くことはできないのだという「感慨」ではなく、これをもってついにソヴィエト音楽史のひとつの段階が閉じたという脱力感が強いのです。ショスタコーヴィチとプロコフィエフをして「彼のための音楽」を書かしめた最強のチェリスト、、ロストロの指揮に(少数の例外を除いて)まったく共感できなかった僕の中では、彼のイメージはそこで止まっています。人権活動家とか、どうでもいいし。
たった一度だけ聴いた実演が、指揮でなくチェロだったのは幸運でした。
2003年の12月、たぶん日本で受けた勲章へのお礼として、東京文化会館で一夜限りの演奏会が催されました(当日は皇后陛下と紀宮が連れ立っていらっしゃっていた)。
あのときは現田茂夫/新日フィルをバックに、ハイドンとドヴォルザークの協奏曲を弾いてくれたのです。ハイポジションの音程を中心に左手はさすがに衰えていたのだけど、巨大な空間を作り出す右手は健在であり、濃厚なドヴォルザークの節回しは驚異的だった。
でも…あの日、アンコールで演奏されたバッハの無伴奏チェロ組曲第2番のサラバンドが、本当に忘れられない。一音一音が深々として柔らかく、しかし一瞬どろりと蠢いて、最後は空気に溶け込んで消えるのです。あの5分間は永遠に続くように思われて、息もできなかった。目の前を、何か得体の知れないものが通り過ぎていったのだ。
合掌。