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ボストリッジ・ザ・ゴールド[隠さない苦味]

c0060659_8422380.jpg【EMI/0946 3 82243 2 7】
<GREAT HANDEL>
●《セメレ》、《メサイア》、《セルセ》、《復活》、《エイシスとガラテア*》、《アリオダンテ》、《サムソン》、《快活の人*》、《イェフタ》から
⇒イアン・ボストリッジ(T)
  ケイト・ロイヤル(S*)
  ハリー・ビケット/啓蒙時代管

自分にとってのボストリッジは、「The English Songbook」で絶望的な心地を体験させてくれる人であり、また「Britten Song Cycles」で暗く冷たい世界の深淵を聴かせてくれたりする人であって、バロック歌いという認識では決してないのです。
したがって、ヘンデルのアリア集を出すというニュースについては必ずしも大歓迎というわけではなく、多少の懐疑を感じていたのが実情。彼の声質と微細な(時として微細すぎる)アーティキュレーションが、ヘンデルの豪放磊落で快楽主義的な音楽と合致するのかしら、と。

結果から言うと、ボストリッジはボストリッジのままでヘンデルに掴みかかって、ヘンデルを組み伏せてしまったなあと、そんな印象のディスク。
まさにkimataさんが書いておられるとおり、低音部の厳しいえぐりがディスク全体に苦々しい味を与えていて、一筋縄ではいかない。ヘンデル由来の甘みは彼の豊かな高音部で120%に引っ張り上げつつ、たとえば《セルセ》のレチタティーヴォとアリア〈懐かしい木陰よ〉なんかでは、これまで耳にしたこともないような情景を聴かせてくれます。手垢にまみれたこの旋律が、覚めることもない暗い夢のように絶望的に響くものなのか…。感動というより薄ら寒くなります。やっぱボストリッジすげえ。。

《メサイア》序盤の個人的ピーク、レチタティーヴォとアリア〈もろもろの谷は高くせられ〉
ここはレチタティーヴォのほう、〈慰めよ、わが民を慰めよ〉に惹かれます。たとえば「saith your Godですとか、「and cry unto her」といった単語の劇的な造形、ここまで微細な陰翳をつけるものなのかと仰天。と同時に、その心を揺さぶるディクションに恍惚とする。。
もちろん絶望や翳の一辺倒ではなくて、《エイシスとガラテア》の二重唱〈Happy we!〉みたいに高らかに歌い上げるヘンデルっぽいナンバーは、いかにもそれらしく明るく造形してあるのが憎たらしい(笑)

そして《アリオダンテ》のアリア〈不実な女よ、戯れるがよい〉の序盤はややもするとボストリッジらしくない、平板な印象を受けるんですが、その奥のほうにチラチラ聴こえる、抑え切れない憎しみみたいなものの表現が逆に怖い。これは隠し苦味。
中間部になってそれがむき出しになると、もうボストリッジの独壇場ですね。

…で、こうやってネタバレしていくのがもったいない。
バロクーにはぜひ聴いていただいて、隠してあったり隠してなかったりするボストリッジの苦味を味わっていただきたいなあと。あ、伴奏のビケット/OAEはよい意味で忠実な伴奏に留まっていて、一切ボストリッジの邪魔をしません。これも好感度大。
by Sonnenfleck | 2007-09-08 08:43 | パンケーキ(18)
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