八月十六日に、ショスタコーヴィチは息子のマキシムを伴って、一ヶ月ほど英国に行った。この旅行の目的は、ショスタコーヴィチの曲がプログラムの中心に据えられていた、エジンバラ音楽祭に出席することだった。という日の、歴史的なライヴが出ました。第4交響曲の西側初演。 昨年発売されたコンドラシン指揮による1963年2月の東ドイツ初演のさらに5ヶ月前、1961年暮れの世界初演から数えても9ヶ月目という、現在聴くことができる最も古い第4の演奏です。すげ。指揮を担当したロジェストヴェンスキーが当時まだ31歳というのも吃驚。 【BBC LEGENDS/BBCL4220-2】 ●ショスタコーヴィチ:交響曲第4番ハ短調 op.47 ※ ●同:《カテリーナ・イズマイロヴァ》組曲 op.114a ※ (1962年9月4日・7日、エジンバラ アッシャーホール) ●同:祝典序曲 op.96 + (1985年7月8日、ロンドン バービカンホール) ⇒ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー/ フィルハーモニア管弦楽団(※)、ロンドン交響楽団(+) レニングラード・フィルやモスクワ・フィルが一緒に行ったわけではないのかな…フィルハーモニア管です。ソヴィエト流のギラギラした音を期待すると、まずは第1楽章の冒頭から見事に裏切られる(笑) アクセントも紳士的なタッチだし、テンポで粘ったりもしないし、これはあくまで理性を貫く構えだなと…最初は思わせる。 第1主題と第2主題を通り過ぎて、トゥッティがユニゾンで行進曲を刻むくだりになると、一気に熱を帯びます。ロジェヴェンらしい非常に厳しいアクセントと前のめりのテンポが(後年の彼自身の録音よりずっと強く!)要求されているようで、例の高速フガートはオケのほうでもついていくのがやっとッス…という感じで息切れ。縦の線もかな~り危うい。。1962年、オケメンは誰もこの曲を耳にしたことがない状況下で、現代のレベルからしても特に遜色ないところまで要求しちゃいますか。 コーダのコーラングレのテヌートに情緒がなくて妙に即物的なのは面白ポイント。この段階では、作品のストーリーやキャラクターまではオケ側に了解されてない感じがします。さらに、ロジェストヴェンスキーにしては真面目で乾いてるなあという印象は、彼自身の中でこの作品へのイメージが醸成され切ってないというところに根があるのかも。 第2楽章はフィルハーモニア管の底力が聴こえてきます。この楽章の(第1楽章に比べれば)簡明なストーリー展開に共感が得られたのだろうか、、特に木管(Fl!)による性格的な描写が第1楽章の比ではないくらい活気を帯びている。 この楽章のマーラーらしいどぎついリズムと俗な旋律が「了解」されている背景に、この演奏の半年前にセッションが組まれているクレンペラーの《復活》が見え隠れするのは…クラヲタ特有の妄想でしょうか。。 で、第3楽章の「わかりやすい」輝かしさ、娯楽性にはさらに吃驚。 たぶんこの曲のこの楽章って、ストレートに演奏するとこういうカーニバル的な雰囲気になるんですよね。あたかも性格的小品が有機的に連結しているかのように、次から次へと楽しい旋律が耳に飛び込んでくる。それでも厳しく激しくモノクロームにやってしまうコンドラシンと、すでにキャリアの初期からサービス精神満点なロジェヴェンのキャラの違いが、このへんの雰囲気の差として如実に現れてると思います。 真ん中に登場するワルツやギャロップの鮮やかな描き分け、そして躁コーダの晴れやかな気分、素晴らしいではないですか。さらに結尾のチェレスタ、Tp、弱音器つきの弦、指揮者が、無理に何らかの「雰囲気」を作り出そうとはしていないところに好感を覚えます。 「演奏」と「録音」によって、この曲ってこんな感じだよねーという「性格」が一般に形作られる前の、貴重な記録。第1楽章におけるオケ側の若干の戸惑いを除けば、若いロジェヴェンによる明るく楽しい造形が聴きものです。オススメ。 ソヴィエトが生んだ超天才であり、歴史的な演奏を任されていたロジェストヴェンスキーの指揮を、40年後の今でも生で聴くことができる東京の聴衆は…その幸せに気づいていないと思う。それとも、チャイコやサンサーンスを楽しそうに振っているあの人は…別人なのか。
by Sonnenfleck
| 2007-10-26 07:11
| パンケーキ(20)
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