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今日は朝からストラヴィンスキー(22)

今日は朝からストラヴィンスキー(22)_c0060659_6504990.jpg【DISC22…ROBERT CRAFT CONDUCTS UNDER THE SUPERVISION OF IGOR STRAVINSKY】
●交響詩《夜うぐいすの歌》(1917) ※
●《ダンス・コンチェルタント》(1942) +
●《フュルステンベルクのマックス王子の墓碑銘》(1959)
→アーサー・グレグホーン(Fl)
  カルマン・ブロッホ(Cl)
  ドロシー・レムセン(Hp)
●《ラウール・デュフィ追悼の二重カノン》(1959)
→イスラエル・ベイカー(Vn)、オティス・イーグルマン(Vn)
  サンフォード・ショーンバッハ(Va)、ジョージ・ナイクルグ(Vc)
●宗教的バラード《アブラハムとイサク》(1963) ※
→リチャード・フリッシュ(Br)

●管弦楽のための変奏曲(1964) ※
●《レクイエム・カンティクルス》(1966) ※
→リンダ・アンダーソン(S)、エレーヌ・ボナッツィ(A)
  チャールズ・ブレスラー(T)、ドナルド・グラム(Bs)
  グレッグ・スミス/イサカ大学コンサート合唱団
⇒ロバート・クラフト/
  コロンビア交響楽団(※)、コロンビア室内管弦楽団(+)

というわけで、先週から引き続きラストのDISC22。

最後の《管弦楽のための変奏曲》《レクイエム・カンティクルス》とは、どちらも、透徹したフォルム舞台性の脂っぽさの両方を兼ね備えた奇跡的な傑作であると、感想文の最後に記しておきたいと思います。
先々週聴いたように、《カンティクム・サクルム》はどうやらストラヴィンスキー内の「フォルムの系譜」が辿り着いた最高傑作である、という思いでいます。それはこのラスト2曲を聴いた今でも変わらない。ではもう一方の、「舞台性の脂っぽさの系譜」は作曲家の中でどうなったのか。このDISC22で言ったら《夜うぐいす...》《ダンス・コンチェルタント》の系譜は。。
40年代から50年代にかけて、たぶん《放蕩者の遍歴》くらいを最後に、こちらの系譜は一旦地下に潜伏したんじゃないかと思うんです。しばらく養分を貯えて、そしてなぜかはよくわからないけれど、作曲家の最晩年にいきなり発芽して「フォルムの系譜」の支柱に絡み付き、見事に巨大な花を咲かせたのではないかな。そういう気がしています。

もうちょっと別の言い方もしてみましょう。
すでに何度か、「フォルムの系譜」のほうを「皿」に例えてますよね。その路線で行くと《カンティクム・サクルム》はそれ自体、非の打ち所がない完璧かつ巨大な皿で、皿自体が偉大な価値を持つようです。博物館の皿に料理が盛られていないから皿としての価値が低い、と言う人がいないのと同じ。このたとえを用いれば、《変奏曲》《レクイエム・カンティクルス》も、間違いなく一級の皿であると思われるんですよ。ただしこれが《カンティクム・サクルム》と異なるのは、そこに、貪欲な聴き手の味覚を刺激するような「料理」が盛ってあるというただ一点ではないかなと思う。

《管弦楽のための変奏曲》の皿には、久しぶりにインパクトのある分厚い音塊へ、華やかなソロを付け合わせて。冒頭のTp数本のしゃがれ声からJAZZYなおふざけを感じ取ったっていいでしょう。ほんの5分間の作品の中にさまざまな階層のさまざまな要素がぎゅっと凝縮されていて、飽きることのない旨味を放っています。最後にたぶんバスクラリネットで「。」と律儀な句点が打たれてるのが面白くて。生で聴いてみたいなあ。

そして《レクイエム・カンティクルス》の皿には、
・バルトーク風の親しみやすい音型
・堅く引き締まって器楽っぽい合唱(〈リベラ・メ〉での粒感が面白い)
・逆に器楽っぽさが巧く取り除かれた合唱(まるで《ミサ曲》のように!)
・口ずさめるような不吉なメロディ
・口ずさめない愉快なメロディ
こんな雑多な材料を渾然一体に煮込んだスープがよそわれている。プレリュード→インターリュード→ポストリュードのアーチ構造は、きっと音列にも関係していたりするんでしょう。楽譜が目の前になくてもこんなに楽しめる十二音作品は…そんなにないんじゃないか。

+ + +

というわけでした。ストラヴィンスキーすげえ。おしまい。
by Sonnenfleck | 2008-01-21 06:56 | パンケーキ(20) | Comments(2)
Commented by dr-enkaizan at 2008-01-21 23:47
毎度です。
大変ご苦労さまです。多様化する作風に困惑しながらも、一枚ごとに素の概念から読み解かれ導きだされる、ストラヴィンスキーの楽曲の多様と本質は非常に説得力と機知に富んでいて感銘をうけますね。

 おそらく愛好家で先入観で扱われがちな、三大バレー以外のストラヴィンスキーの悪評が真実ではないことが解る、今後の重要になりそうな、この全集の詳細わかり易いレヴューのような気がします。

フォルムの皿と料理の関係に例えるあたりは、まさに やられた という観あるうまい言い回しですし。
カンティクルスの
・口ずさめるような不吉なメロディ
・口ずさめない愉快なメロディ
の分類もブーレーズの論文で奇しくも似た分類があり、それを導き出す
Sonnenfleck もすげえ(笑)と思っとります。
重ねてご苦労様でした。
Commented by Sonnenfleck at 2008-01-22 22:11
>ドクター円海山さん
ネット上を日本語で検索しても、3大バレエ以外のストラヴィンスキー情報ってほとんどヒットしなかったんですよ。体系的に聴いていったらきっとクラ経験値がたまるだろうというのもありましたけど、のちのち誰かが「大全集」に挑戦したときに、ナビくらいあってもいいよなあと思ったのも背景としてありますね。途中からは演奏批評に辿りつかずに作品感想文の羅列になってしまいましたが…満足してます。
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