【2008年5月17日(土)16:00~ 第347回定期/愛知県芸術劇場】
<ツァラトゥストラ2―隠れた世界> ●ハイドン:《天地創造》 Hob.xxI-2 ~ 第1曲〈混沌〉 ●ケクラン:管弦楽のための夜想曲《星降る天穹に向かって》 op.129(日本初演) ●ロータ:トロンボーン協奏曲 ●マルタン:トロンボーンと管弦楽のためのバラード ○アンコール ?:《波止場にたたずみ》 クルティス:《帰れソレントへ》 →ジョゼフ・アレッシ(Tb) ●シベリウス:交響曲第5番変ホ長調 op.82 ⇒金聖響/名古屋フィルハーモニー交響楽団 このプログラムが暗示しているのは、無神論に対応する不可知論なのかなと思った。 ハイドン→ケクラン→シベリウスはこれらの作品の中で人が知り得ない領域を音楽化しようと試みたと言えるし、だとすれば、人に属する神秘の尾っぽとして宗教性を纏わざるを得なかったトロンボーンをここへ持ってくるのは、西洋音楽史的には当然の帰結だと思われる。 本当のところはどうなのか知らないけどさ。 ただ ― 陽気なヤンキー・アレッシの「気のいい」アンコールは措くにしても ― この一見雑多な5人の作曲家による120分間は、(これが凄いんだけど)耳で聴いても新鮮な統一感に貫かれており、またもホールの椅子の上で唸らされてしまいました。 前回の定期に引き続きですが、「ツァラトゥストラ」シリーズはただ闇雲に変な曲を並べてみましたということではなく、信じられないくらい細やかに考え抜かれた結果としてああいったぶっ飛びプログラムになっているんじゃないかと、、気づかされつつあります。 + + + 金聖響はやはりバロックティンパニを持ち込んで、《天地創造》冒頭を演奏します。 対向配置でなかったのはこの後のプログラムによる要請だと思いますが、そのぶん目の釣りあがったようなノンヴィブラートを徹底させて厳しい音響に仕立てる。ちょっとやだな。 そして(想像どおり)、ハイドンからアタッカでケクラン《星降る天穹に向かって》に移行。 語法はまったく異なるのに、この継ぎ目のなさ。。並べて聴くと物凄いぞ。。 (つまりハイドンのカオスがいかに前衛的であったかということですね。) 実は、ラ・フォル・ジュルネでもらった無料パスを使いNMLでこの作品を予習してたんだけど、まんまメシアンのご先祖さまという感じなんですよ。子孫より旋律が直截でずっと陶酔感が強いものの、混濁した肌触りの心地よさは「血のつながり」を感じさせます。 それゆえに、金氏の刺さるような音楽づくりに僕は異議を申し立てたかった。ステージ上に尖がった三角錐がたくさん並ぶような音響は、ハイドンでは一定の効果があったけど、この作品のマチエールにはまったく似つかわしくないもの。。 ロータの新古典的な協奏曲、マルタンの十二音+ジャズなバラード。 耳に届く不可知として威容を誇ってきたトロンボーンが、新古典主義と十二音の前に引き摺り出されて裸にされる末路…。バラードの最後にソロが「ぷあぁぁぁ...ぁ」と断末魔を上げる箇所なんか、よくできてるなあと思ったです。 NYP首席奏者のアレッシはとてつもなく滑らかな発音、かつピアニシモが抜群に太くて、あーこのへんが一流の人なのねーと思わせる。どちらもオケはギスギスゴシゴシと造り込まれていて、今度はこれらの曲調に映えるし、アレッシとの断絶も効果的に現れています。 最後のシベ5。テンポも妙に速くて、本当は「シベリア5番」なのではというくらい寒々しい音響に仕上がっていたように思いました。シベリウスはいまだに自信を持って「わかる」と言い切れないので、最後の高揚で盛り上がれなかったのが自分のせいなのか演奏のせいなのか曲づくりのせいなのか、判別に苦しんでいます。聴かれた皆さん、どう思われましたか?
by Sonnenfleck
| 2008-05-18 09:25
| 演奏会聴き語り
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Comments(9)
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モザイク
at 2008-05-18 11:19
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どうも。
私は今回も金曜日でしたが、前半は悪くなかったように思います。よもや5分のためだけにバロックティンパニを用意するとは、驚きでした。ただ、ピリオドアプローチともどもぎこちなさが拭えなかったように思います。まあ「混沌」だからなんだか掴めないうちに終わるのもいいかな、なんて思っているうちにケクランにいってしまいました(これは予想通り、とうか“前科”がありますからね)。この人、もっととんでもない作品を仕立てる人のようなイメージが(勝手に)あったのですが、師のフォーレほど簡潔ではないにせよ、真っ当ないい曲だと(失礼ながら)思いました。それだけに、もっとふくよかな響きで堪能したかった気もします。どーでもいいですが、初演から20年経ってないんですね。アレッシさんの「1本の線で歌う」演奏はかっこよかったです。
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モザイク
at 2008-05-18 11:20
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続けて失礼いたします。
シベリウスは、私も門外漢ですが、正直残念な出来だったと思います。第1楽章から造形が不足、というか、勢いに任せたような印象です。比較はタブーと思いつつ、普段聴いているのがベルグルンド/COE盤のためもあってか、テクスチュアの未消化が耳につきました。改めて実演に接するととんでもない難曲かもしれないな、と思った次第です。 2回目にして、このシリーズ構成の巧みさに感じ入りました。それだけにオケにとっては重労働でしょうし、今回はそれが裏目に出た感もありますが、フィッシャーさんの卓見に敬意を表しつつ、常任指揮者様の登場(その前にデュテイユーがありますが)に期待大です。
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Sonnenfleck at 2008-05-18 14:05
>モザイクさん
オリエンタルな旋律がまったりと流れる中、たまに打ち上げ花火のようにソロがぱぁっと弾けて…私もケクランにびっくりしたクチです。逆に打ち上げ花火の楽しさはNMLで予習していたホリガー盤より上だったかもしれません。初演から19年、っていうのは今確認して仰天してます。どうして埋もれてたんでしょうねー。 シベリウスは、、私が感じていたことに近くて安心してます。「前半でスタミナ切れ」は前回も見られた傾向なので、次回のブルックナー(とデュティユー>これも美しい作品ですね)、その次のラヴェルはぜひ頑張ってほしいという思いです。はっきり言って物凄く期待してますもの!
こんばんは。
モザイクさんの書かれているように、シベリウスの第5番はかなりの難曲なのかもしれません。 演奏の出来はちょっと残念な部分もありましたが、私はさらにこの曲への興味を持つようになったので、金&名フィルには拍手したいと思います。
なるほど、Tbは宗教性の象徴ですかね。天国から響くラッパ?その連想はしないでもなかったのですが、ロータの曲調がすこし勇ましくてそれに撹乱されました。
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ライオンの昼寝
at 2008-05-18 23:30
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ハイドンとケクラン以外は「隠れた世界」をどう象徴しているのかわかりませんが、総じて濃密な時間を過ごせました。
最初の2曲を続けてというのはフィッシャーの意図でしょうし、それは今回も成功だったと思います。(本人が登場する7月ではそういう趣向にならないのが残念ですし、ホリガーの小品以外は名曲シリーズみたいなのが面白くないけれど。) ロータは思いのほかバルトーク・プロコフィエフのような趣で、明るくて軽快な映画音楽的なものとは違ったシンフォニックでさえある作品で、気に入りました^^ マルタンは把握できず、面白くなかったけれど、退屈するほどでなかったのは、短い作品だからかな^^; シベリウスは、生で5番が聴けることだけで興奮して嬉しくてしょうがなかった。 淡々としすぎというか、整えることに精一杯とか、そういうものを感じはしましたが、同時にシベリウス特有の「ティンパニのトレモロ攻撃」に魂を差し出してしまった私ですので、決して悪い印象はありませんでした。 それにしても新シリーズは素晴らしい・・聴衆にとっては「受容とはどういうことか」が将に「投げかけられた質問」なのではないかという気がしてきました。
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Sonnenfleck at 2008-05-19 07:47
>ピースうさぎさん
第1楽章冒頭のホルンと木管の会話、あそこが強く印象に残ってます。ティモシー君のClは表現意欲が豊かで好きですねー。 昨年から7、6、5、とシベリウスが取り上げられて、東海圏のシベリウス好きの方にはたまらない状況でしょうね。自分もシベリウスをちゃんと勉強しないとなあ。。
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Sonnenfleck at 2008-05-19 07:55
>kimataさん
今回のプログラムは妄想しがいがあって(笑)まあ好きなように書かせてもらいました。モツレクなんかを聴いてても、トロンボーンって特別扱いされてるなあと思います。 今回もしロータとマルタンではなく、たとえば武満のジェモーだったら、もっとストレートに神秘性が表出したかもしれませんね。そこをあえて外してくるのが面白いんですが。
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Sonnenfleck at 2008-05-19 08:09
>ライオンの昼寝さん
私もあの「アタッカ作戦」がずっと続くのかと思って、この先のプログラムを確認したクチです。でも真ん中の協奏曲のソリストを巧く捌く必要があるんですね。。 シベ5のティンパニがあんなに難しいという認識がなかったので、びっくりしました。第1楽章のコーダ(?)の打撃は鮮やかでした! 曲間を大事にする演出で、聴衆の受容態度は確かに変化してきているように思います。名物だったフライング拍手は少し緩和されてきてますし(引いてるだけかもしれませんが)。。
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