【2008年7月27日(日)14:00~ オーチャードホール】●ワーグナー:楽劇《トリスタンとイゾルデ》 ⇒ピーター・セラーズ(演出) ⇒ビル・ヴィオラ(映像) →クリフトン・フォービス(T/トリスタン) フランツ=ヨーゼフ・セリグ(Bs/マルケ王) ヴィオレッタ・ウルマーナ(S/イゾルデ) ボアズ・ダニエル(Br/クルヴェナール) エカテリーナ・グバノヴァ(S/ブランゲーネ) サムエル・ユン(Br/メロート) アレス・ブリシャイン(T/牧童・若い水夫・船乗り) ユリ・キッシン(Bs/舵手) →アレッサンドロ・ディステファノ/パリ国立オペラ合唱団 →セミョン・ビシュコフ/パリ国立オペラ管弦楽団 何から書いていいのかわかんないや。。整理しきれないのでそのまま字にしてしまいます。 今回ばっかりは自分のための記録を書くので、乱文ゴメンナサイ。 ずぶずぶぐずぐずに泣かされたという意味では、今回を上回る体験はこれまでない。 第3幕の最後の10分間はハンカチで口を押さえて嗚咽が漏れないようにするのに必死だったです。それは今回が人生初の生トリスタンだったせいもあるし、壮絶に美しいビル・ヴィオラの映像に酔ったせいもあるし、オケが色気のある音を放出していたせいでもあるし、ヴィオレッタ・ウルマーナのマジなイゾルデに動転したせいもあるだろう。 + + + ■演出(セラーズ+ヴィオラ) まさしくビル・ヴィオラによるトリスタン解釈のために用意された演出でした。 「舞台」と書くのが妥当なのかわからないくらい簡素な仕えで、キングサイズのベッド程度の黒い台がひとつふたつ存在するだけです。衣裳も黒い地味な作り、イゾルデが黒いドレスを着ているくらいで、トリスタンはそこらのおっさんのような化繊のジッパー付きコート(第3幕では病院着のような白装束)、クルヴェナールに至っては灰色のTシャツ+ジャージ。 演技なんかもごくあっさりしたもので、心情吐露は基本的に棒立ちなんですよ。魔酒の杯を飲み干すときも愛を為すときも剣で敵を刺すときも、やれやれどっこいしょ…ってな感じで最小限の仕草しかしない。 そのかわり、、後景を占有する巨大なスクリーンが世界のすべてを映し出すのです。 ◆第1幕 1.前奏曲が終わって幕が上がると、荒れ狂う海、灰色の波しぶき。 2.同じ大きさの2つの額縁(中にはいかにも制作された広大無辺な空間が広がっているが、地平線に明かりを受けた点がそれぞれ見える)。 3.徐々に点が大きくなってゆき、それがこちらへゆっくりと歩いてくる男女だとわかる。 彼らは接近しきって額縁から飛び出す。 4.男女は別々の部屋に入り、東洋風のゆったりした服を脱ぎ始める。 それぞれの部屋には老人と老婆がいて、それを手伝う。 5.一糸まとわぬ全裸になると、彼らは流れ落ちる二本の水を手で結び、あるいは盥に張った水に顔を浸し、老人と老婆によって甕の水を頭から掛けられたり―要するに浄められる。 6.イゾルデがブランゲーネに薬酒の企みを明かすあたりから映像が一旦消える。 しかし2人が媚薬を飲み干した箇所のトリスタン和音に合わせてスクリーンが光り、男女が一緒に水へ飛び込む映像が「水底から捉えられる」。 7.コーンウォールへの到着とともに再びホワイトアウト。1階客席の最後列に合唱が一直線で並び、マルケ王が1階中央扉から入場、舞台のトリスタンとイゾルデを一瞥。暗転。 ⇒当然だけど、音楽は映像に合わせて展開するのじゃなく、誰かが音楽の展開を耳にしてその場で映像を切り替えているようでした。スコアも台本も完璧に読み込まないとこんな映像は作れないし操れないだろう。◆第2幕 1.黄昏の森。日はすぐに落ち、森は幾本ものサーチライトで探索される。 2.燃え盛る巨大な火柱。 3.暗い背景からゆっくりと近づく男。やがて火柱に辿り着き、薪を蹴飛ばしながら通過。 4.無数に並ぶ燭台のひとつひとつへ火を点す女。 5.見つめ合う男女。そこで赤外線カメラのような粗い映像へ切り替わり、ぼやけ、曖昧にされ、きっと音楽と同じものが映像でも展開される。 6.浜辺から入水する男女。 7.月明かりと夜の森 8.クルヴェナールの叫びとともに不気味な暁闇の森の遠景へ。メロートの告発とマルケ王の独白とともに夜は白々と明けてゆき、朝焼けに巨樹が黒く浮かび上がる。 9.明るすぎる陽光の下で刺されるトリスタン。暗転。 ⇒当初、火に対する男と女の違い(3. 4.)。◆第3幕 1.これまで横長だったスクリーンが縦長に。 2.灰色の海、冬枯れの木立、ぼやけて曖昧な城や領地。 3.前二幕ではなかった赤い水の映像が頻繁に流れる。藻、着衣のまま泳ぐ女の姿。 4.陽炎の立つ、明るく暑い大地の向こうから、だんだんと近づくヴェールの女。女はイゾルデの到着とともに高い火柱を背にして鮮明に立ちはだかり、そして倒れる。 5.トリスタンが事切れると、黒い台座に横たわる男の映像に切り替わる。メロートの死も、クルヴェナールの死も、映像はついぞ関知しない。 6.「愛の死」とともにもはや何もないはずの男の体から水泡が立ち昇り、それは徐々に流れとなって上昇を始める(ここは水中だったのだ!)。呆然とスクリーンを見上げるしかないマルケ王とブランゲーネ。イゾルデのクライマックスとともに激しい水流が男の体を持ち上げ、遥かに高いところまで持ち上げていく。水面を抜け、夜空まで。暗転。 ⇒「みなさんには見えないのですか」というイゾルデの言葉、これが楽劇《トリスタンとイゾルデ》を、最後の最後で額縁から解放するわけです。ものがたりの額縁から音楽がするりと抜け出てくる瞬間を、ビル・ヴィオラはあえて見えるようにした。「野蛮な」視覚を経由してもなお美しい音楽。 + + + 続く、かなあ。
by Sonnenfleck
| 2008-07-29 07:06
| 演奏会聴き語り
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Comments(2)
何度も何度も読み返させていただきました。
圧倒されました。 ご自分のためにお書きになっているとおっしゃってますが、受取られたものの大きさや深さが強烈に伝わってきました。 このところ随分世界中のオペラ劇場に広がっていて、さすがに近頃はいろいろなところでうんざりされつつある「読み替え」演出とは根本的に異なったというか、むしろ、正反対と言ってもいい本質そのものを提示するような演出だったのですね。 この記事に触発されて拙ブログに関連したことを書かせていただきました。
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>前島良雄さん
結局は事象の羅列になってしまってお恥ずかしいかぎりですが、(こんな形ででも)記録を残しておくべきだと思ったのです。 おっしゃるとおりここでは「読み替え」はとりあえずの重要性を失っていて、イゾルデはお姫さまだし、トリスタンは騎士だし、マルケは王さまでした。強く存在する映像のことも含めて、あれは賛否両論あって当然の演出でありましょう。ググれば否定的な意見もたくさんヒットします。でもいつか、何らかの媒体を通して、あの映像が多くの人の目に触れればいいなあと、それだけは強く感じるんですよ。
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