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鉄でできた墓銘碑

鉄でできた墓銘碑_c0060659_825880.jpg【ARTE NOVA/74321 48722 2】
<ロシア未来派 Vol.3>
●モソロフ:弦楽四重奏曲第1番 op.24
●ロスラヴェツ:同第1番
●同:同第3番
●クニッペル:同第3番
⇒ノヴォシビルスク・フィルハーモニカ弦楽四重奏団

1997年にARTE NOVAから発売された5枚組「ロシア未来派」は、ロシア・アヴァンギャルド音楽を世に知らしめるのに大きく貢献したんじゃないかと思います。廉かったもんねえ。
その最後にあたるVol.3のDISC2には、未来派作曲家たちの弦楽四重奏曲が収められています。前世紀末のARTE NOVAらしくノヴォシビルスクの謎のカルテットが起用されてまして、いかにもアナログな音で雑味が多いんだけど、むしろ鉄壁の透明感によって演奏されるのよりもずっとしっくりくるんスよね。こういう曲の場合。(←ソヴィエト補正)

このディスクで聴かれるべきはモソロフ弦楽四重奏曲第1番(1926年)でしょう。
20年代のソヴィエト楽壇は、「インテリっぽくアヴァンギャルド音楽を追求しようぜ派」「民衆に理解しやすい娯楽音楽しか許さねえ派」に分れていて、スターリンが権力を掌握したあたりから後者の勢いが強まってしまうんですよね。この2派閥は一旦解体されるんだけど、この流れがのちのち社会主義リアリズムの方向を決定づけた要因のひとつと、自分はそういう理解でいます。
当然前者に属していたモソロフはかなり攻撃されて、30年代後半には強制労働に従事させられるまで身を落とすわけですが、それはまた別の話。1926年の段階の勢いは相当なもので、彼の名前を有名にしている《鉄工場》が作曲されたのもこの時期ですね。
第1楽章が全体の半分以上を占めるいびつな構造で、耳に残るオスティナートがたーっくさん出てくるのも《鉄工場》仕立て。大きく盛り上がったところでチェロが手の関節で胴体を叩いてリズムを取るところなんか、ショスタコを愛する人ならつい幸福な気分になってしまうだろう。

ロスラヴェツはシェーンベルクとは別に十二音の発想に行き当たったと言われる作曲家ですが、1913年に作曲された弦楽四重奏曲第1番はまだ後期スクリャービンらしい(ちょっと洗練された)響き。しかし革命を経て1920年の弦楽四重奏曲第3番になると五線譜の間に工業と鉄の成分が加わったような感じで、バルトークに少し似ているけども決定的にダサく、鋭く尖がった立派なアヴァンギャルド音楽に変貌しております。

しかしクニッペルの弦楽四重奏曲第3番は1973年の作品だから、絶対ここに入っているべきではないですね。旋律は冷たく抑揚も柔らかで、20年代の熱く溶けた鉄のような音楽の後に聴くと、いかにも冷えて分別をわきまえた鉄塊のようで悲しい。「奇跡的に巧く立ち回った大作曲家」ショスタコーヴィチの影響がモロに現れているのも悲しい。

今年になって再発されジャケ写真も一新されてしまいましたが、これはカッコよすぎて違うべと叫びたい。もっと泥臭くないと熱かった作曲家たちが浮ばれないよ。
by Sonnenfleck | 2008-08-03 08:29 | パンケーキ(20) | Comments(2)
Commented by まりぬ at 2008-08-03 09:35 x
またお邪魔しています。
いまようやくショスタコーヴィチ先生にたどりついたところなので(修行中の身です)すぐには聴けないと思いますが、でも、この記事を読んで、「何が何でも聴かなければっ」という気持になっています。
Commented by Sonnenfleck at 2008-08-03 17:55
ショスタコーヴィチの20年代の作品は、聴く上でのコツみたいなものがこれ以降の作品とはずいぶん異なりますからね。モソロフやロースラヴェツに親しむのもそこへの近道のひとつですよ。きっと。

ここ最近の熱いエントリを拝見して、昨夜久しぶりにショスタコのVc協奏曲を聴きました(ソロはウィスペルウェイ)。URLに反してここも今やショスタコブログではなくなってしまいましたが、それこそ今回のワーグナーと一緒で、この作曲家も自分の耳の中に格納しているつもりなので、これから秋口にかけて聴いてみようかしらと思ってます。
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