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on the air:インマゼール/アニマ・エテルナの《幻想交響曲》

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【2008年5月11日 デュッセルドルフ・トーンハレ(シューマンフェスト・デュッセルドルフ)】
●リスト:《メフィストワルツ》第1番 〈村の居酒屋での踊り〉 S514
●グリーグ:Pf協奏曲イ短調 op.16
→リアン・デ・ヴァール(1886年エラールPf)
●ベルリオーズ:《幻想交響曲》 op.14
⇒ジョス・ファン・インマゼール/アニマ・エテルナ
(2008年7月20日/WDR 3)

インマゼール、、八面六臂すぎる。5月にはデュッセルドルフに現れて、ベッタベタのロマン派プログラムを披露したようです。ますます聴き逃せない。

《メフィストワルツ》第1番は完璧なショウピース。
冒頭Fgのぶおーん、ぶおーん、ぶおーん、という明確なキャラクタづけに笑ってしまいました。そこへだんだん他の管楽器が集まって来、弓をきつく当てた塩辛いVnの音とともにワルツの幕が開くシーンは鮮やかのひとこと!途中で《ラ・ヴァルス》のご先祖さまとしか思えない黄昏時のような響きが何度も聴かれ、こういうところにもラヴェル管弦楽曲集の収穫が活きてきているんだろうなと思われます。続くグリーグのPf協奏曲はベストフォームではなかったので…感想はパスさせてください。

しかし、、メインの《幻想交響曲》です。お楽しみは。

一聴しまして、ああこれは前の2曲とは次元が違うとすぐに気づく。
とにかく切なく歌っているんですよ。この幻想。甘ーい昂ぶりをそのままストレートに旋律線へ託してしまう。こんなに歌い上げているとは思わなかったものだから、胸が締めつけられます。でも低弦のドライな刻みを残忍にもかなり目立つ形でそのまま残しているために、隣り合っている破局の影を視ないようにすることができない。第1楽章のコーダなんかは特にイデーフィクスへの切ない歌い込みがとびきりの繊細さで行なわれて、ここで涙が出ました。

第2楽章。絶品と書くのは易いが、どんな魔術を使えばこうなるか見当がつかない。
考えられないくらい切なく、匂い立つような響きが充満しているのです。
横方向はときどき思い出したように立ち止まることが多いので、弛まぬ3拍子のフォルムで言えば他にいくらでもスタイリッシュなものが見つかりますが、こんなにものがたりの豊かな起伏と曲線を感じさせる縦方向の響きは経験したことがない。標題性を強く追求したグランドマナーの磊落な演奏も、標題性に重きを置かないメカニカルな演奏も、どちらもこんな体験はさせてくれなかった。夢でも見ていたようでちょっと呆然。

ところが第3楽章でも夢は続いていて、響きは美しいままなのに今度は妙に荒涼とした風景が眼前に広がるのでした。これは、各所の重要なパッセージで残響を敢えて切り落とすようにポツ...ポツ...と句読点を置いているのでそのように聴こえるのだと思うんですが、寂しげな「情感」とは正反対の方向へ押し出されてしまったのに、いつのまにか最終目的地である「神秘」へ辿り着いていたような感じ。

ここまでずっと続いてきた切ない夢のような響きは、ここで打ち止め。
夢から醒めたら救いようのない現実が待っていました。
ここまで甘く切なく歌われた代償なのかどうかわかりませんが、第4楽章は絶望的な重苦しさによって聴き手をどこかへ突き落とします。アクの強いアニマ・エテルナの金管楽器隊がこうして恣意的なくらい遅いテンポに乗っかると、一瞬の破裂に集積するエネルギーが大きくなってずいぶんな威力になるわけだ。最後のドラムロールはいかにもねばねばとまとわりついて厭らしい。カタルシスなんかないのです。ただ辛く、ただ厭らしい。

醜く変容したイデーフィクスに感慨を覚える向きは、この演奏では相当の覚悟を持って第5楽章に臨まなければならなかったのでしょう。横方向にだらしなく伸ばされただけで、そこまで激しく崩れているわけではないのに、前半で甘く歌われたためにギャップが大きい。あまり用心していなかった僕は大ダメージを受けたです。
さらなる衝撃は、鐘の声部がピアノによって演奏されていたことでありました。
鐘の曖昧な音響とそこにまつわるイメージが掃われただけでこんなに異常な雰囲気になるとは…冗談抜きで心臓が止まるかと。。「怒りの日」とピアノの打鍵が混ざると皮肉な感じがなくなってしまって、なんだかとても悲劇的な響きになるのでした。一体なぜ?初版の楽譜だとこうなっているのか?インマゼールのことだから綿密な考証に基づいているとは思うけど。。

終結部分は切なさも気持ち悪さも、いくつもの相反する感情がぐるぐると渦を描いており、これも今までにないヤバげな感覚。風邪を引いて熱があるときに音楽を聴くと音楽に形が見えることがあるけど、熱もないのにそれを感じさせられました。ううむ。魔術。
終演後は一瞬、お客が引いてました。拍手もできない。ブラヴォも飛ばせない。

+ + +

ここを訪問くださる皆さんは、きっと音楽に「BGM」以上のものを求めておられると思います。
これまでと同じであれば、この《幻想交響曲》もやがて録音され正規に発売されるでしょう。
いつか、買って聴いてください。これまでにない感覚が味わえます。
by Sonnenfleck | 2008-08-08 06:45 | on the air
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