人気ブログランキング |

2008年 05月 23日 ( 1 )

これも冬の旅行の一日

c0060659_63217100.jpg【TELDEC/0630-18824-2】
●シューベルト:《冬の旅》 D911
⇒クリストフ・プレガルディエン(T)
  アンドレアス・シュタイアー(FP)

祭りが終わった後なので告白しますが、不吉なキャラが立ったあの音楽と、島崎藤村みたいにナヨナヨっとした歌詞が嫌で、実はこれまで《冬の旅》をそれほど積極的に聴いてこなかった経緯があります。今年のLFJで押さえたチケットが白井光子さんの「通常版」ではなくて、(結局行けなかったが)「ツェンダー版」であったのもそのせいと言っていいでしょう。

特に「キャラ立ち」に関しては、音楽的と言うよりも文学的すぎると言いますか、「高等遊民」のもっさいオッサンが嗚咽しながら浸っているような不透明なイメージが僕の中にあって、なかなか近づきがたかったんですよ。最初に聴いたのがハンス・ホッターの絶唱だったのがいけなかったのかもしれない(「菩提樹」じゃなく「世界樹」だな)。これに自己投影できる人とできない人でクラヲタは二分されているのではないかと思っていました。

でも、変ホ長調ピアノ・トリオの第2楽章で、ポツポツ歩く音型が出てくるじゃないですか。あれを深夜時間にヘロヘロになった頭で聴いて、あーただ「歌いながら」歩いてるだけで、《冬の旅》だって全然いつものシューベルトと同じじゃんー...という風につながったんですよね。歩く音型がちょっと異なる位相で現れているだけだということがわかり、iioさんがおっしゃるところの「健やかな病み方」が自分の中で発見された気がしてます。

シュタイアーとプレガルディエン。タキシードを着た歌手がひとりで突っ走る「リートの夕べ」はここにはなく、互いに互いの抜けるタイミングを巧く補完しあって、きれいな球面になっている。それでも恐らく本質的な支配権はシュタイアーにあって、プレガルディエンの歩みを甘美なアゴーギクで止めてしまう瞬間がたいそう美しいです。1825年頃制作された「ヨハン・フリッツ」の音色が、この表現をさらに高めていますね。
by Sonnenfleck | 2008-05-23 06:35 | パンケーキ(19)