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2008年 05月 25日 ( 1 )

喜べだって?誰とともに?

c0060659_6541780.jpg【SONY/SK 62615】
<ブリテン>
●祝祭カンタータ《キリストと共にいて喜べ》 op.30
●カンティクル第2番《アブラハムとイサク》 op.51
●《キャロルの祭典》 op.28
●《聖処女賛歌》
●婚礼のアンセム《我愛す、ゆえに我あり》 op.46
●《アンティフォン》 op.56b

→ティモシー・ディキンソン、リチャード・ファーンスワース、トビー・ダンハム(Tr)
  マイケル・チャンス(C-T)、イアン・ボストリッジ(T)、サイモン・バーチャル(Bs)
  アリン・ブレワー(Hp)、ジュリアス・ドレイク(Pf)、マーティン・ベイカー(Org)
⇒マーティン・ニアリー/ウェストミンスター寺院聖歌隊

有名な《キャロルの祭典》を始め、どれもブリテンらしさに貫かれた佳曲ばかりですが、耳を奪われたのは冒頭の《キリストと共にいて喜べ》という短いカンタータ。歌詞はクリストファー・スマートという18世紀の詩人の作品なんですけど、当時彼は「宗教的な熱狂」に憑りつかれて精神病院に入り、そこでこの詩を書いたらしい。
まさしくアウトサイダー・アートですね。で、とある一節を引用してみます。。
For I am under the same accusation with my Saviour ―
For they said, he is besides himself.
For the officers of the peace are at variance with me,
and the watchman smites me with his staff.
For Silly fellow! Sille fellow!
is against me and belongeth neither to me nor to my family.
For I am in twelve Hardships,
but he that was born of a virgin shall deliver me out of all.
この部分は合唱が歌うんですが、恐るべきことに、「レミ♭ドシ」の音型が執拗に17回も繰り返されるんですよ。特に赤字の「staff」の箇所では、オルガンの強奏でもって恐ろしい威圧感とともに…。前提知識が何もない状態で聴いて、飛び上がりました。

大変妄想し甲斐のあるテーマです。まず、ブリテンがこれを初演した1943年9月の時点で、ショスタコーヴィチは「DSCH」署名を音楽の中に使っていたのか?交響曲第1番第1楽章の冒頭は確かに「DS」で始まるけど、この時期に署名がはっきり現れているのはピアノ・ソナタ第2番の第3楽章くらいではないかと思う。そして、この第2ソナタは1943年6月の初演なんですよ。そもそも第2ソナタをブリテンが耳にしたかどうかまったく資料がないけれども、もし何らかの形で聴いたとして、ブリテンはすでにこの時点で「署名」だと読み取っていたのか?

ネットで検索していくと「Silly fellow!(バカなやつ!)」に「レミ♭ドシ」が重なってることだけを指摘する例が多いんですが、「レミ♭ドシ」はこの節全体を覆うように何度も用いられているし、バルトークがやったような揶揄とは考えにくいのではないか。
詩の内容を重視すれば、遠くレニングラードのショスタコーヴィチを想い、ブリテンがここで痛烈に揶揄しているのは、むしろ「officers of the peace」と、口髭をたっぷり蓄えたグルジア系の「watchman」ではないかしら。。

このテーマで書いてる論文って絶対あるだろうなあ。読んでみたいなあ。

+ + +

96年の録音で、比較的若い頃のボストリッジが参加してます。《キリストと共にいて喜べ》でも、件の合唱の前の節(やっぱりちょっと狂信的な内容)をしみじみと歌ってますね。
by Sonnenfleck | 2008-05-25 06:55 | パンケーキ(20)