【2009年5月4日(月) 14:00~ 新国立劇場】
●ショスタコーヴィチ:歌劇《ムツェンスク郡のマクベス夫人》 op.29 →ヴァレリー・アレクセイエフ(Bs/ボリス・チモフェーヴィチ・イズマイロフ、ボリスの亡霊、年老いた囚人) 内山信吾(T/ジノーヴィー・ボリゾヴィチ) ステファニー・フリーデ(S/カテリーナ・リヴォーヴナ) ヴィクトール・ルトシュク(T/セルゲイ) 出来田三智子(S/アクシーニャ) 高橋淳(T/ボロ服の男) 森山京子(MS/ソニェートカ) 他 →新国立劇場合唱団 →リチャード・ジョーンズ(演出) ⇒ミハイル・シンケヴィチ/東京交響楽団 自分はショスタコーヴィチが大好きで、彼の音楽のために多くの時間を用意してきたけど、このオペラだけはちゃんと向き合ってこなかった。何度も通しで聴いていない。あの凄惨すぎる響きを日常生活に組み込むのが困難なのです。 で、《鼻》から遅れること4年、ようやく実演に接することになった《マクベス夫人》。 ■あらすじと演出 レスコフの原作はちょうど一昨年、岩波文庫からリクエスト復刊により重版されて、名古屋にいたころ読み終えていましたが、枝葉の部分においてそれとは若干異なるオペラの方のあらすじは新国の公式をご覧いただければと思います。才能溢れる若きショスタコーヴィチによって制作された台本は、オペラティックな感興を引き起こす場面が追加されて(つまり、よりこの時期の作曲家好みのスラップスティックが取り込まれて)います。 2004年にロイヤル・オペラで初演されたリチャード・ジョーンズの演出はきわめて真っ当、文句の付けようはありません。印象に残ったのをいくつか挙げると、 ・互いに監視される「個室性」を表現するのに、隣り合った2部屋を常に用いる方法。 →さらにその中で、家具の中に自己閉塞する登場人物。 →死んでなお、旧生活を象徴する家具に自己閉塞するジノーヴィー。 ・スプレーが露骨なアクシーニャの集団レイプシーン。 →男共の仮面ってネズミでしたか?であれば納得がいく。 ・群集の扱い。あのぬぼうっとした動きは、練習のせいではなく態となのか? →でも、さすがに警官達の動きのダサさはいたたまれなくなった。ニホンジンマジメ。。 →バンダをステージに上げる理由がわからない。音響面で? ・ボリス殺害後の場面転換+間奏曲。ここはなかなか巧かった。 →壁紙を張り替え家具を新調する様子を、幕を上げて見せてしまうメタな感興。 ・ブラウン管に映るボリスの亡霊。 →警察署の中でも、テレヴィジョンの有用性が高い。 ・けばけばしい結婚式のダンスパーティ。非常にショスタコらしい場面。 →案外あっさり終えてしまったのがもったいない。 ・ヴォルガ道連れ投身の仕組み。これも自分は評価する。 →奈落にゆったりと沈めるのは、あの音楽からしたらむしろ当然ではないだろうか。 アーノンクール式の藝術観からしたら、暴力とポルノに染まりきった21世紀初頭においては、もっともっと血とエロの値を上げなければ、当時の観衆が味わったような興奮は、あるいは髭のあるグルジア人に荒唐無稽と叫ばせたものは得られないんだとは思います(個人的には、味覚異常と罵られてもいいから、初体験はもっと過激なのがよかった)。しかし、きれいな国立劇場でGWに良識ある市民をお招きして演るにはあれぐらいが妥当なのかとも思います。 ■歌手とオケ 歌手は主役級3人がみんな一定水準以上でしたので、十二分に楽しめました。特にボリス役のアレクセイエフは、腹にずんとくるような嫌らしさを芬々と漂わせる一方、終幕での年老いた囚人の深いうたが実に素晴らしくて、《バービィ・ヤール》の第4楽章を聴いているような気分になった。あの部分が、後年のショスタコーヴィチに向かって極めて滑らかにリンクしているということを発見させられた。 酔っ払い役の高橋淳は、、ああいう役どころは食傷気味。。予想つくもんなあ。。 さてこの日は。オケがですね、けっこうよかったんですよ。 予定されていた若杉監督が体調を崩して降板、代わって指揮台に立ったのがゲルギエフの弟子筋にあたるミハイル・シンケヴィチでした。この作品に必要な、暴力的なところを過不足なく暴力的に運ぶ手腕はマリインスキーで鍛え上げられたのでしょうが、なおかつ静寂時の「気分」をちゃんと響きに纏わりつかせる能力にも長けていて(彼のお師匠さんにはこれが不足している>ヴォリュームを下げるだけでは意味がないんだもの)、迫り来るボリスの静かな圧迫感や、第4幕の暗澹たる道行き、そして身体中に響く最後の大クレシェンドなんか強く評価したいポイントです。東響も、キタエンコとの《レニングラード》はこんな感じだったのだろうなあと思わせる、ヘヴィーかつダーティな響きを作り上げていて、ブラヴォでした。 ■雑感 プログラムで一柳センセが、レディ・マクベスは「マクベス夫人」じゃなくて「マクベス<女性版>」じゃないのと述べておられて、あーそれもそうだよなと思った。その視点からすると《軍人たち》からの流れは自然だし、流れ着くのが《ヴォツェック》というのも自然。 #
by Sonnenfleck
| 2009-05-17 12:04
| 演奏会聴き語り
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足立区、公園にモスキート音発生装置-若者の器物破損防止目的で(5月13日/亀有経済新聞)
やるかもよ、という話は聞いていましたが、本当にやっちまったよ足立区。グロテスクと言えばあまりにもグロテスク。 モスキート音自体はちょっと前に一時的に流行ってましたよね。しかしまさかこんな形で産業化されていようとは思いませんでした。ちなみに自分は14000Hz以上がもう聴こえなくなっているので、悔しい。ここで試せますので、モスキート絶望同盟を結成しましょう。 少なくともオルガンの一部の音は聴き取れていない自信がある。実は耳のいい奏者が超絶的即興を施しているかもしれないというのに。。 #
by Sonnenfleck
| 2009-05-16 08:53
| 日記
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鈴木博之『東京の地霊』、1990年、文芸春秋社(2009年、ちくま学芸文庫)
昨年から断続的に放送されていたNHKスペシャル『沸騰都市』シリーズが面白かった。 その最終回「TOKYOモンスター」を見ていたら、この回だけ攻殻機動隊みたいな秀麗なショートアニメが挿入されていた(意欲的なつくり)。その中の登場人物が手にしていたのが、この『東京の地霊』なのでした。読んだことがなかったので、さっそく近所の本屋へ走って購入。 本書での「地霊(ゲニウス・ロキ Genius loki)」という概念はそんなにオカルト的なものではなくて、まえがきにおける著者の言葉を引用すれば「ある土地から引き出される霊感とか、土地に結びついた連想性、あるいは土地がもつ可能性」ということになる。 土地に結びついた連想性というのが自分としては(主語が明確なように思えるので)いちばんしっくりくるかな。ただしこの直後に「その土地のもつ文化的・歴史的・社会的な背景と性格を読み解く要素も含まれている」ともされます。 したがって、本書においては、いくつかの「由来の深い」東京の土地がセレクトされて、地道かついくぶん羅列的な考察作業が行なわれます。基本的には関係者の行動や古地図資料を丹念に読み込んで「感じ」を言語化してゆくのですが、その反面、突如として飛躍的な結論に達するところも多く、フィクショナルな楽しみも味わえるのが面白いところです。真面目な建築学の先生がキレて思いの丈をぶちまけたような熱さがある(ギャップ萌え?) 東京で、あるいは東京へ簡単にアクセスできる場所で生まれ育った方はどうなのか知りませんが、少なくとも僕にとっては東京はまだまだ謎が多い場所です。あそこはこんな感じの街、こっちはこういう感じ、というのを無意識に会得しているのが街リテラシーかなと思うんですが、東京については、おぼろげな了解こそあるもののいまだ無意識のレベルには全く達しないなあ。いつか達するかなあ。 ともかく、本文の内容をここで述べるのはもったいないのでやめますが(ぜひ買って読んでください)、断絶したように思える戦前からの東京は案外残っているのだなあと感じ入りました。もうちょい落ち着いたら、東京の街を歩いてみよう。 #
by Sonnenfleck
| 2009-05-15 06:30
| 晴読雨読
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【DGG/471 624-2】
●マーラー:交響曲第9番 ⇒クラウディオ・アバド/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 けっこう前からずっと聴いていて、いつか言葉が浮んでくるかなと思っていたけれども、やっぱりいいのが浮んでこない。でもこの演奏の何かに、強烈に惹かれているのは間違いないのです。 この演奏よりも激しかったり(バーンスタイン)、豊麗だったり(カラヤン)、巨大だったり(ジュリーニ)、美しさそのものにこだわりがあったり(ベルティーニ)、痩せぎすだったり(ギーレン)する演奏はぱっぱっぱっと思い浮かんでいくのだけど、どれもこの演奏には似ていません。上記のような指揮者達は、いずれも激しく・豊麗に・巨大に・美しく・響きをスマートに「しよう」という意志の力が強く漂っているように思います。 ではアバドのこのライヴ録音が意志薄弱なのかというとそんなこともなくて、主に横の方へ向かって「展開していこう」という思いが、他の録音以上に濃厚なんじゃないかと思う。この「展開していこう」意志っていうのは、芸術音楽である以上、大なり小なりそこに備わっているのが当然なのだろうから、それがクローズアップされる機会は案外ないのかもしれない(料理で例えると「出汁を取るのは当たり前」みたいなものでしょうか)。おまけにアバドの演奏に聴かれる波が押し寄せるようなフレージングはそれ自体はかなりあっさりして聴こえるから(出汁は超超超一流、味つけは極薄)、僕が手に入れたこの中古盤を叩き売った人はもしかしたら「何もしていない」ように聴こえてしまったのかもしれない。 ここがここが!と書けないのが痛いところではあるけど、あちこちの曲がり角や隘路を音響体がすり抜けるときにムリがない、そういったしなやかさが特長と言えるのです(ほとんど肥大もせず、攻撃性も持たないスリムな第3楽章に、たとえばそれは現れていると思われる)。おそらくこの特長は具体的なテンポの速さだけに結実するものではなくて、トゥッティが次の瞬間の楽句をまさに「欲する」ようにして捉まえていくというか。。それによって確かにテンポはいくぶん速くなると思うし、、本当にわかりにくく伝わりにくい類ものと思いますが、「展開していこう」意志が周囲を汚さない音楽づくりをマーラーでやってしまう、なんていうのは、アバド以外に誰が実現するだろうか。うーーん。うまく書けないなあ。けどそんな感じ! #
by Sonnenfleck
| 2009-05-14 06:57
| パンケーキ(20)
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新作ジャンク・ドリンク市場も微妙に冷え込んでいたこの冬、ひとり気を吐いていたのがKIRINの「世界のキッチンから」シリーズ。
わけても「とろとろ桃のフルーニュ」は、語感や色合いも手伝ったのか、PETから缶や紙パックに輸出されるというこれまでにない展開になっております。近所のコンビニに並んでたら、僕の前の女子(ってこの文脈では呼んであげるべきだろうな)がこれを何本も買い占めていくのを見ましたし、自分も通算するとPET10本くらいは買ったかもしれない。 これまでのシリーズ作品に比べるとちょっとケミカルな匂いが強めなんだけど、どうしようもなく桃かつマンゴーなので、疲れて思考停止してるときにはつい手が伸びてしまいますね。真夏まではロングランか。 いっぽうの「カラメル・オ・レ」は塩スイーツの流れを汲んでいて、バター由来っぽい濃厚なコクの中に塩気が微妙に感じられる独特の飲み心地。少なくとも僕は、何かと一緒に、という感じではない。嵌る人は激しく嵌りそうではある。 だが、やっぱり夏へ向けてマセドニアグレープの復活を願うところ。あれが飲みたいのよ! #
by Sonnenfleck
| 2009-05-13 06:30
| ジャンクなんて...
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